コロナ後の「なんとなく不調」——甲状腺が関係しているかもしれません
コロナ後の「なんとなく不調」——甲状腺が関係しているかもしれません
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)から回復した後に、「なんとなく体調が優れない」「気分が不安定」「動悸や疲れが続く」といった不調を感じていませんか?
それらの症状は、甲状腺機能の一過性の異常、特にウイルス感染後に生じる甲状腺炎に伴うホルモン異常が関係している可能性があります。
甲状腺とは?
甲状腺は、首の前側に位置する小さな臓器で、代謝や自律神経機能を調整するホルモン(T3、T4)を分泌しています。これらのホルモンが過剰に分泌されると、心拍数の上昇、不安感、体重減少、発汗過多など、さまざまな症状が現れます。
なぜCOVID-19後に甲状腺に異常が起こるのか?
SARS-CoV-2(コロナウイルス)は、「ACE2受容体」を介して細胞に侵入します。甲状腺にもこの受容体が豊富に発現しているため、ウイルスによる直接的な炎症(サブアキュート甲状腺炎や無痛性甲状腺炎)が起こりうるのです。
この炎症により、一時的に甲状腺ホルモンが漏出し、甲状腺機能亢進症様の症状が出現します。ただし、ほとんどの場合、数週間から数か月で自然に回復します。
主な症状
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動悸、頻脈
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手指の振戦(ふるえ)
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発汗の増加、暑がり
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気分の不安定、不安感、イライラ
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疲労感、脱力感
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原因不明の体重減少
なお、甲状腺に痛みを伴わないタイプも多く、気づかれにくいことがあります。精神的症状が前景に立つ場合には、うつ病や不安障害と誤診される可能性もあります。
検査と診断
医療機関では以下の検査が行われます:
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TSH(甲状腺刺激ホルモン):低値
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FT3、FT4(甲状腺ホルモン):上昇
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抗TPO抗体、抗Tg抗体:多くの場合陰性(自己免疫性疾患とは異なるため)
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炎症マーカー(CRPなど):軽度上昇のことあり
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甲状腺超音波検査:低エコー域、血流の変化がみられることも
治療方針
このような一過性の甲状腺機能異常は、通常は自然に改善することが多いため、経過観察が基本です。ただし、症状が強い場合には以下のような対症療法が行われます。
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β遮断薬(例:プロプラノロール):動悸や振戦の軽減
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NSAIDsまたはステロイド:炎症が強い場合に使用
まれに、数か月後に一過性の甲状腺機能低下症へ移行することがあり、定期的な血液検査によるフォローアップが推奨されます。
心の不調と甲状腺の関係
甲状腺ホルモンは脳内神経伝達物質にも影響を及ぼすため、不安・抑うつ・無気力といった精神症状が現れることがあります。
したがって、COVID-19から回復しているにもかかわらず心身の不調が続く場合には、甲状腺機能のチェックを考慮すべきです。
まとめ
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コロナ後の「不調」は、甲状腺の一過性の炎症によるものかもしれません。
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血液検査で簡単に確認できるため、症状が続く場合は医師に相談しましょう。
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必要に応じて治療を受けつつ、経過観察によって自然回復が期待できる疾患です。
体と心、どちらも大切に
COVID-19後の体調不良は、気のせいや精神的な問題だけとは限りません。
「内科的な原因」も含めた視点での評価が、回復のカギになることがあります。
Lewy(レビー)小体型認知症(DLB)とは?
Lewy小体型認知症(DLB)とは?〜早期発見と予防のためにできること〜
こんにちは。認知症予防専門医の立場から、今回は「Lewy小体型認知症(DLB)」についてお話しします。
「DLBって聞いたことない」という方も多いかもしれませんが、アルツハイマー型認知症に次いで多い認知症のひとつで、特に高齢男性に多く見られます。
この病気の特徴や、早期に気づくためのポイント、そして予防の視点から私たちにできることをお伝えします。
■ DLBとはどんな認知症?
DLBは、「レビー小体(Lewy bodies)」と呼ばれる異常なたんぱく質(α-シヌクレイン)が脳にたまることによって起こる認知症です。
物忘れだけでなく、「幻視」や「体のこわばり」、「立ちくらみ」や「夢の中で暴れる」などの多彩な症状が現れるのが特徴です。
■ DLBの早期発見ポイント
認知症は「忘れること」から始まると思われがちですが、DLBでは記憶よりも他の症状が先に出ることがあります。早期発見のために、以下の症状に注目しましょう。
✅ DLBに特徴的な初期症状
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リアルな幻視(人や動物が見える)
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注意力の波がある(日によって頭の冴え方が違う)
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レム睡眠行動障害(RBD)(寝ている間に大声を出す、手足を動かす)
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手足のこわばりや歩きにくさ
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立ちくらみ、便秘、頻尿などの自律神経症状
これらが複数みられる場合、「加齢のせい」で済ませず、早めに医療機関で相談することが大切です。
■ DLBの診断と検査
DLBは、医師の診察と問診に加えて、脳画像検査(MRIやSPECT)やDATスキャン(ドパミントランスポーターSPECT)で診断をサポートします。
DLBでは脳のドパミン神経の働きが低下しているため、DATスキャンで異常がはっきりと見えることがあります。
→ 早期発見により、薬の選択やケアの計画を早く整えることができるのです。
■ DLBは「チーム」で支える時代へ
DLBは、記憶障害だけでなく、運動・精神・睡眠・自律神経など多方面にわたる症状があるため、治療やケアもひとりの医師だけでは難しいのが現実です。
そのため、神経内科、精神科、看護師、薬剤師、リハビリ職、栄養士、ケアマネージャーなど、多職種が連携する**「チーム医療」**がとても重要です。
そして、最も大切なのは、家族と地域の理解と協力です。幻視や妄想があっても「その人らしさ」を支えることが、生活の質を大きく左右します。
■ DLBの治療と予防的ケア
DLBに対しては、症状ごとの薬物治療が行われます。ただし、薬への過敏性が高いため、医師が注意深く調整する必要があります。
主な治療の例:
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認知症症状:ドネペジルなどのコリンエステラーゼ阻害薬
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幻視・妄想:できるだけ非薬物的対応を優先
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パーキンソン症状:レボドパを慎重に使用
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睡眠障害:メラトニンや生活リズムの改善
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自律神経症状:生活習慣+必要に応じて薬物治療
■ 認知症予防の観点から私たちができること
DLBの予防には、「脳にやさしい生活習慣」が大きく関わります。DLBも他の認知症同様、生活習慣病や睡眠障害、社会的孤立が進行のリスクとなることがわかっています。
DLB予防のための実践ポイント
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🧠 定期的な有酸素運動(ウォーキング、ヨガなど)
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🥦 抗炎症性の地中海型食生活
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🛌 睡眠の質の改善(特にレム睡眠)
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🗣 人との交流・地域活動
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📚 認知刺激(読書、学び直し、ゲーム)
また、50代以降でRBD(夢で暴れる)症状がある方は、DLBの前駆期の可能性もあるため、神経内科への早めの相談をお勧めします。
■ 最後に:本人も家族も「早めに知ること」が最大の予防
DLBは複雑で、時に混乱や不安を伴う認知症ですが、**「早く気づくこと」「正しく知ること」「支え合うこと」**で、本人も家族も穏やかに暮らすことが可能です。
認知症は「なる前」よりも、「なってからどう支えるか」がとても大切な時代になっています。
DLBという疾患を正しく理解し、予防とケアを社会全体で支えるために、少しでもこの情報がお役に立てば幸いです。
COVID-19(新型コロナ)と体の老化
🧬コロナにかかると「体内年齢」が進む!?〜DNAと老化のふしぎな関係〜
こんにちは!今日は、感染症と老化の関係について、最新の研究を紹介します。
テーマは、なんと――
「COVID-19(新型コロナ)と体の老化」について。
「ウイルスに感染すると老けるの?」
そう聞くとびっくりするかもしれませんが、体の“内側”では、実際にそうした変化が起きている可能性があるんです。
🧬「本当の年齢」はDNAが教えてくれる?
私たちの体には、「カレンダーの年齢(実年齢)」と「生物学的年齢(体の機能的な年齢)」があります。
生物学的年齢は、DNAのメチル化という仕組みを使って測ることができます。これは「エピジェネティック時計」と呼ばれ、最新の老化研究で広く使われています。
🔍DNAメチル化とは:DNAに小さな化学物質(メチル基)がつくことで、遺伝子のはたらきがON・OFFされる仕組み。加齢や生活習慣、感染症などによって変化します。
🧪 どんな研究だったの?
この研究では、ハンガリーを中心とする国際チームが、54人の中高年を3年間にわたり追跡調査しました。
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調査時期:2019年(パンデミック前)〜2022年(終息期)
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評価項目:
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COVID-19の感染歴(27人が感染)
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筋力や体力(握力・ジャンプ力・VO₂ max)
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血液のDNAメチル化(850,000ヵ所を解析)
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8種類の「エピジェネティック時計」による老化評価
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📊 研究でわかったこと
✅ 感染者グループ(COVID-19を経験した人)
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GrimAgeなどの指標で「老化の加速」が確認された
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特に、加齢や死亡リスクと関連する指標で有意な差
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握力が低下(加齢の影響と一致)
✅ 非感染者グループ
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一部の人では「生物学的老化が遅くなった」との結果
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特に運動習慣があった人は、ジャンプ力が向上
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エピジェネティック時計でも「加齢が抑制された」兆候あり
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🧠 専門的にみて:なぜこうなるの?
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ウイルス感染は、免疫細胞の構成変化や慢性的な炎症を引き起こします。
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これにより、DNAメチル化のパターンが乱れ、生物学的年齢が進みやすくなると考えられています。
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一方で、適度な運動や生活習慣の改善は、加齢を遅らせる可能性があることも本研究は示唆しています。
💡 結論:感染症は「見えない老化」をもたらす可能性がある
この研究は、COVID-19という感染症が、一時的な症状だけでなく、長期的に体の老化プロセスにも影響するかもしれないことを明らかにしました。
特に、
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高齢者や基礎疾患を持つ人では影響が強く出る可能性
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若年者でも「目に見えない変化」が起きているかもしれない
という点は注目すべきです。
🧬 これからを生きる高校生へ
感染症と老化、免疫、遺伝子といった話は、これからの医療や健康科学に欠かせないテーマです。
「自分のDNAの働き方まで変えるウイルスがある」
そんな視点を持つことで、医療や科学の見方が変わるかもしれません。
興味をもった人は、「エピジェネティクス」「生物学的年齢」などをぜひ調べてみてくださいね。
老化の節目とは
🧬 老化は“ゆるやか”じゃない!? 44歳・60歳に訪れる「老化の節目」とは
「なんだか最近疲れやすい…」「昔よりお酒が残る…」
それ、実は“老化の節目”のサインかもしれません。
🔎 老化は“直線”じゃない? 階段のように進む!
これまで老化は「年齢とともに少しずつ進むもの」と考えられてきましたが、最新の研究では、老化は特定の年齢で急激に進む“階段状”の変化であることが明らかになってきました。
2024年に発表されたスタンフォード大学などの研究によると、ヒトの老化には44歳、60歳、78歳という3つの節目が存在するとのことです(Shen et al., Nature Aging 2024)。
🧪 科学が明らかにした「老化の3つの節目」
この研究では、25〜75歳の健康な男女108名を対象に、血液・代謝産物・腸内細菌叢など13万以上のマーカーを数年にわたり分析。その結果、老化の変化が急激に増える“変曲点”が以下の年齢にあることが示されました:
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✅ 44歳:ホルモン・代謝の変化が始まる
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✅ 60歳:筋肉・免疫・認知機能が大きく変動
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✅ 78歳:回復力・可塑性の限界
📍 44歳:ホルモンと代謝の“静かな変化”が始まる
✔ こんな変化、ありませんか?
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太りやすくなった
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疲れが抜けない
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飲酒やカフェインの影響を強く感じる
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気分の波が増えた
この頃から、DHEAやテストステロンなどのホルモンが減少し始め、代謝能力も低下してきます。脂質やアルコール、カフェインの代謝が遅れがちになり、いわゆる“若さの貯金”が使い切られてくるタイミングです。
🛡 対策のポイント
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筋力トレーニングと有酸素運動の習慣化
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糖質制限や地中海式食事を意識
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ビタミンD、マグネシウム、DHEAなどの栄養補助
※ホルモン補充療法(DHEA・テストステロンなど)は、必ず医師の指導のもと行いましょう。
📍 60歳:免疫・筋力・認知の“加速的な低下”
✔ 気になる症状は?
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転倒が増えた、歩行が遅くなった
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忘れっぽさ、集中力の低下
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風邪や感染症が長引く
この時期は、免疫老化(Immunosenescence)と慢性炎症(Inflammaging)が進行し、認知機能や筋力、骨密度に顕著な変化が現れます。
🛡 対策のポイント
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ケトン体代謝(MCTオイル、断続的断食)による脳と肝のサポート
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高たんぱく質・レジスタンストレーニングによる筋肉維持
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抗炎症栄養素(オメガ3脂肪酸、ポリフェノールなど)
※断食やMCT使用は、低栄養や持病のある方にはリスクがあるため、医師との相談をおすすめします。
📍 78歳:回復力と可塑性の“限界”
この年齢以降は、自己修復力の低下と多疾患併存(複数の病気を同時に抱える状態)が課題に。フレイル(虚弱)や認知症リスク、介護の必要性が一気に高まります。
🛡 対策のポイント
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運動・栄養・認知刺激・社会参加の4本柱
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多剤併用の見直し(ポリファーマシー対策)
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医療・介護チームによる包括的サポート
📊 老化の節目まとめ表
節目 | 年齢 | 主な変化 | キーワード | 対策の柱 |
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第1段階 | 44歳前後 | ホルモン・代謝の低下 | 初期老化 | 栄養・運動・睡眠 |
第2段階 | 60歳前後 | 免疫・認知・筋骨格の変化 | フレイル | ケトン体・抗炎症・運動 |
第3段階 | 78歳前後 | 回復力の限界 | 要介護・QOL維持 | 多面的フレイル予防 |
※老化の進行には個人差があり、生活習慣・遺伝・性別などにより前後することがあります。
🔬 引用・参考文献
Shen, X. et al. (2024).
“Nonlinear dynamics of multi-omics profiles during human aging.”
Nature Aging, 4, 1619–1634.
https://doi.org/10.1038/s43587-024-00692-2
✨ まとめ
「老化=ゆっくり進むもの」と思っていたら要注意。
44歳・60歳・78歳の節目は、あなたの体の“変わり目”です。
でも大丈夫。変化に気づければ、今からでも予防はできるんです。
未来の自分のために、今日から“小さなリセット”を始めてみませんか?
子どもが耳を気にして泣いている?それ、もしかして「中耳炎」かも!
👶子どもが耳を気にして泣いている?それ、もしかして「中耳炎」かも!
今回は、小さなお子さんをお持ちのご家庭でよくある「中耳炎(ちゅうじえん)」についてお話しします。
風邪をひいたあとに耳を痛がる、夜に泣き出す、なんとなく機嫌が悪い…
そんな時に考えられる病気の一つが「急性中耳炎」です。
🦠中耳炎ってなに?
「中耳炎」とは、鼻の奥と耳をつなぐ「耳管(じかん)」という管に炎症が起こり、中耳(耳の奥の空間)にウイルスや細菌が感染して膿や液がたまる病気です。
ほとんどの場合、風邪(上気道感染)に続いて発症します。
📊どのくらい多いの?
なんと、2歳までに約4割の子が1回はかかるほど、乳幼児に多い病気なんです。特に保育園に通っている子、授乳期間が短かった子、男の子はややリスクが高め。
🕵️♀️どんな症状が出るの?
お子さんがまだお話しできないと、見逃しやすいですが、こんなサインがあれば要注意!
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耳を引っ張る・触るしぐさが増える
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夜泣き・眠れない
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機嫌が悪い、ぐずぐずする
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熱がある
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耳から膿が出ている(鼓膜が破れている可能性あり)
👨⚕️病院での診断ってどうするの?
医師は耳鏡(じきょう)という器具で鼓膜の状態を観察します。
✅ 鼓膜が赤く腫れていたり、膨らんでいたりすると中耳炎と診断されます。
❌ 単に赤いだけ、というだけでは中耳炎とは限りません。
💊治療はどうするの?
軽症の場合は…
👉 症状が軽ければ、すぐに抗生物質を使わず様子を見ることもあります。お子さん自身の免疫力で治るケースも多いからです。
中等度以上の場合は…
👉 多くの場合、「アモキシシリン」という抗生物質を10日間内服します。
(過去1ヶ月以内に抗生物質を使っていたり、結膜炎を併発している場合は、少し強めの「アモキシシリン・クラブラン酸」を使うこともあります。)
🌟鎮痛薬(アセトアミノフェンなど)での痛みのコントロールも大切です。
⏱抗生物質って5日でいいの?10日必要?
最近の研究では、特に2歳未満のお子さんでは5日間の治療では再発や治療失敗が多く、10日間が推奨されています。
🧠再発したらどうするの?
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年間に3~4回以上中耳炎をくり返すと「再発性中耳炎」とされます。
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よく行われる「鼓膜チューブ挿入(チュービング)」は、再発予防には一定の効果がありますが、最近の研究では内服治療と再発率はあまり変わらないという結果も。
🧸ママ・パパへのアドバイス
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耳を気にする+発熱や機嫌の悪さがあれば、早めに小児科や耳鼻科へ。
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医師に言われたお薬は途中でやめず、最後まできちんと飲ませる。
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保育園や兄弟間での感染を防ぐためにも、手洗い・咳エチケットを忘れずに。
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できるだけ母乳育児を長く続けることも予防に有効です。
📌まとめ
項目 | ポイント |
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原因 | 風邪の後にウイルス+細菌感染 |
症状 | 耳を触る・夜泣き・機嫌が悪い |
診断 | 鼓膜の観察(腫れ・膨らみ) |
治療 | 軽症は経過観察、重症は抗生物質10日間 |
再発 | 頻回なら耳鼻科受診・治療方針の再検討 |
何度も中耳炎をくり返すと、パパママも心配が尽きませんよね。
でも、正しい知識とタイミングでの対応ができれば、重症化や合併症はほとんど防げます。
気になることがあれば、遠慮なく小児科や耳鼻科の先生に相談してくださいね!