おいしく治そう【うつ病対策】
🍽️ おいしく治そう【うつ病対策】
~脳と腸を整える、こころにやさしい食事のすすめ~
🧠 なぜ「食事」がうつ病と関係あるの?
うつ病は、単なる「気分の落ち込み」ではなく、脳の神経伝達物質(セロトニン・ドーパミン・ノルアドレナリンなど)の働きの不調によって引き起こされる医学的な疾患です。
近年の研究では、脳の働きを支える神経伝達物質の合成には“食事”が深く関係していることが分かってきました。
📚 エビデンスで見る「食事とうつ病」の関係
✅ SMILES試験(BMC Medicine, 2017)
オーストラリアで行われたこの研究では、うつ病の方に地中海型食(野菜・魚・ナッツ・全粒穀物など)を12週間続けてもらったところ、
✨ うつ症状の有意な改善が認められました。
つまり「何を食べるか」が、薬だけでは補えない気分の安定に影響するという結果です。
🌱 セロトニン・ドーパミンを支える栄養素とは?
栄養素 | 主な役割 | 多く含む食品 |
---|---|---|
トリプトファン | セロトニンの材料 | 大豆製品、卵、バナナ |
チロシン | ドーパミンの材料 | チーズ、鶏肉、魚 |
ビタミンB群 | 合成と代謝サポート | 緑黄色野菜、レバー、海藻 |
鉄・亜鉛・Mg | 酵素・神経機能維持 | ひじき、ナッツ、豆類 |
🦠 腸を整えれば、こころも整う? ― 腸脳相関(Gut-Brain Axis)
実は、セロトニンの約90%が腸で作られていることをご存知ですか?
腸内環境の乱れは、炎症や不安の増加に直結します。
そのため「腸を整えることは、脳を整えること」にもつながるのです。
🍽️ 1日のモデルメニュー(抗うつ+腸内環境ケア)
朝食:
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オートミール+ヨーグルト+バナナ+ナッツ
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ゆで卵
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具だくさん味噌汁
昼食:
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サバの塩焼き
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雑穀ご飯
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納豆+青菜のおひたし
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野菜の味噌汁
夕食:
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鶏むね肉のグリル
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焼き野菜(オリーブオイル)
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豆腐ときのこの味噌汁
💬 よくある質問(Q&A)
Q:薬を飲んでいれば、食事は関係ないの?
→ いいえ。食事は神経伝達物質の“材料”です。薬と食事は“両輪”です。
Q:甘いものをやめられません。
→ セロトニン不足や血糖の乱れが原因かもしれません。まずは食事のリズムとたんぱく質を意識して。
🩺 医師からのひとこと
「こころの健康は、気のせいじゃない。“気分”は“食べ物”から変えられる。」
一気に変える必要はありません。
まずは朝食を整えることから、今日から始めてみませんか?
パニック症とは?そのリスクと向き合い方
パニック症とは?そのリスクと向き合い方
最近、久しぶりにパニック症の新患を何人か診療する機会がありました。
パニック発作は特別なものではなく、多くの人が人生で一度は経験する可能性があると言われています。統計によると、人口の約22%が生涯に一度以上のパニック発作を経験するそうです。
ただし、ほとんどの人は一度きりの発作で回復し、日常生活を続けています。パニック発作がパニック症(パニック障害)に進行する人の割合は比較的少なく、全体の1割程度にとどまると報告されています。このことから、多くの場合、パニック発作は一過性のものであることがわかります。
パニック症になるリスク要因
では、なぜ一部の人はパニック発作からパニック症に進行するのでしょうか?
その背景には、さまざまな要因が関係しています。主に以下の3つのリスク要因が挙げられます。
1. 気質的要因
• ネガティブな感情を抱きやすい性格
不安や緊張、怒りなどの感情を頻繁に抱える人は、ストレスに対して脆弱になりやすいです。
• 不安への過敏性
ちょっとした身体の不快感や不安を「完全に解消しないと落ち着かない」と感じる傾向のある人は、発作を強化してしまうリスクがあります。
• 不安を過度に恐れる傾向
「この不安が再び大きな発作を引き起こすのではないか」と考えることで、恐怖が増幅され、悪循環に陥りやすくなります。
2. 環境要因
• 子どもの頃に虐待やトラウマを経験している。
• 長期的なストレスフルな生活環境(仕事や家庭内の問題など)。
• サポート体制が不足している、あるいは社会的孤立を感じている。
3. 遺伝・生理学的要因
• 家族歴の影響
家族に不安障害や抑うつ症がある場合、リスクが高まることがわかっています。
• 生理学的特性
呼吸や交感神経系が過敏であることが発作の引き金になることがあります。
不安への過敏性とその克服の重要性
パニック症の患者さんの中には、不安や身体の不快感が少しでも残っていると「完全に解消しないと気が済まない」と感じる方がいます。このような過敏性がある場合、不安や身体症状に意識が集中し、それが新たな発作を誘発するという悪循環が生じます。
治療の一環として、抗不安薬を処方することはありますが、これには注意が必要です。抗不安薬は一時的な症状の緩和には有効ですが、長期間使用する場合には副作用や依存のリスクが伴います。そのため、抗不安薬を使用する際には、医師の指導のもとで適切な量と期間を守ることが大切です。
一方で、薬物療法だけに頼るのではなく、心理療法や生活習慣の改善を併用することが推奨されます。不安に対処するスキルを身につけることで、薬に頼らずに自分の力で症状をコントロールすることが目指されます。
目的本意の生活を築くために
パニック症を克服するには、「不安を完全に取り除くこと」を目標にするのではなく、不安を抱えながらも自分の価値観や目標に基づいて行動することが鍵となります。不安を受け入れつつ、目的本意の生活を送ることが、結果的に不安の影響を最小限に抑える道となります。
具体的な方法
1. 認知行動療法(CBT)
不安の原因となる思考パターンを見直し、より現実的で柔軟な考え方を育てます。
2. リラクゼーション法
呼吸法やマインドフルネス瞑想、自律訓練法などを活用して、不安を感じたときに心を落ち着けるスキルを身につけます。
3. 生活習慣の見直し
規則正しい睡眠、バランスの取れた食事、適度な運動を取り入れることで、心身の安定を図ります。
4. 支援を受ける
家族や友人とのつながりを大切にし、孤立を防ぎます。また、専門家の治療を受けることも大きな助けになります。
まとめ
パニック発作は誰にでも起こりうるもので、その多くは一時的なものです。しかし、特定の要因が絡み合うことで、パニック症に進行することもあります。不安に対して過剰に敏感になりすぎないようにしながら、目的本意の生活を築くことで、不安の影響をコントロールすることが可能です。
大切なのは、不安そのものを完全に排除しようとするのではなく、不安があっても「自分らしい生き方」を見つけていくことです。一歩ずつ前進するそのプロセスが、あなたの人生をより豊かにするものになるでしょう。
臨床催眠と私
臨床催眠と私
日常的な催眠
催眠とは、意識の変容状態を意味しており、私たちは日常生活の中で自然に催眠状態に入ったり出たりしています。例えば、本に夢中になって時間を忘れたり、車を運転しながら無意識に目的地に到着することも、催眠の一形態です。こうした日常の中での催眠状態は、誰にとっても自然なものであり、特別な状況や場所が必要なわけではありません。
臨床での催眠
臨床の現場では、催眠は治療者の誘導によって現実意識の低下や特定の事象への没入を促す手法として用いられます。この催眠現象は、コミュニケーションのツールとして機能し、クライアントの持つ問題や症状の解決・改善を助けます。特に、リラクゼーション誘導は不安を和らげ、自律神経の調整や痛みのコントロールなどに有効です。また、カタレプシー誘導は疼痛コントロールを目的として用いられます。
創造的催眠
私が最も気に入っているのは、創造的催眠と呼ばれる誘導方法です。これは、クライアントの無意識的な創造力を引き出し、心身の調和を図るものです。心身症などの場合、客観的症状、心理社会的要因、無意識的要因の相互関係を調整するために、創造的催眠は非常に有効です。
家族との催眠体験
私の子供が小さかった頃、直接暗示や年齢退行の練習として、幻の苺を食べさせるといった楽しい催眠セッションを行ったこともあります。しかし、臨床の現場では直接暗示を用いることはほとんどありません。代わりに、依存状態を避けるために、自我強化を含めた後催眠暗示を多く用いるようにしています。
コロナ禍と催眠
2021年、久しぶりにZoomによる催眠講習会に参加しました。コロナ禍が始まってから、臨床催眠にかける時間が減少していましたが、この講習会を通じて改めて催眠の楽しさを再確認しました。しかし、現実にはコロナワクチン接種やコロナ診療に時間をとられ、催眠を実践する機会が少なくなっているのが現状です。
結論
催眠は、私にとって重要な治療手段であり、クライアントの心身の健康を支える大切なツールです。今後も時間を見つけて臨床催眠の技術を磨き、クライアントに寄り添った治療を提供していきたいと考えています。
セロトニン症候群について
セロトニン症候群について
セロトニン症候群は、脳内のセロトニンの過剰な増加によって引き起こされる危険な状態です。主にセロトニン作動薬の過剰投与や薬物の相互作用によって発生することが多く、早期の発見と治療が非常に重要です。
セロトニンとは?
セロトニンは神経伝達物質の一つで、気分の調整や睡眠、食欲など多くの生理機能に関与しています。通常、セロトニンは適切なバランスを保っていますが、特定の薬物によってそのバランスが崩れることがあります。
セロトニン症候群の原因
セロトニン症候群は、以下のような状況で発生することがあります:
• 複数のセロトニン作動薬の併用: 例えば、抗うつ薬(SSRIやSNRI)と鎮痛薬、抗吐薬など。
• 薬物の過剰投与: セロトニン作動薬の過剰摂取。
• 薬物の相互作用: 複数の薬物が互いに作用してセロトニンのレベルを異常に上昇させること。
主な症状
セロトニン症候群の症状は、軽度から重度まで幅広くあります。主な症状には以下が含まれます:
• 精神症状: 焦燥、不安、混乱、錯乱、激しい興奮
• 自律神経症状: 発汗、発熱、動悸、血圧の変動
• 神経筋症状: 筋肉の震え、反射亢進、筋硬直、けいれん
診断と治療
セロトニン症候群の診断は、臨床症状と薬物歴に基づいて行われます。血液検査や画像診断などは補助的な役割を果たします。
治療法:
• 薬物の中止: セロトニン作動薬の使用を直ちに中止します。
• 支持療法: 体温管理、水分補給、酸素療法などの対症療法が行われます。
• 薬物療法: 重度の場合、ベンゾジアゼピンなどの薬物が使用されることがあります。
予防と注意点
セロトニン症候群を予防するためには、以下の点に注意することが重要です:
• 医師の指示を守る: 処方された薬は指示された通りに服用し、自己判断での薬の増減は避けましょう。
• 薬物の相互作用に注意: 複数の薬を服用している場合、それぞれの相互作用について医師に確認することが重要です。
• 症状に敏感になる: 異常な症状が現れた場合は、直ちに医師に相談してください。
症例: ある女性のケース
数年前、ある女性が受診した際にセロトニン症候群の既往があることを知りました。この患者は、他院でパニック症の治療中にパキシル(パロキセチン)10mgとセディール(タンドスピロン)を併用処方を受けました。服用開始後、突然激しい不安感と身体症状が現れ、頭がぼうっとする感覚が続き、その病院に救急搬送されました。医師による診察と薬物歴の確認により、セロトニン症候群の既往が疑われ、直ちに薬物の中止と適切な治療が行われました。患者はその後、無事に回復しましたが、薬物の相互作用とセロトニン症候群のリスクについての認識が重要であることが再認識されました。
結論
セロトニン症候群は迅速な対応が求められる緊急事態です。症状の認識と適切な治療により、重篤な結果を避けることが可能です。日常生活での注意と医師との連携が、セロトニン症候群の予防に大いに役立ちます。
この情報が、セロトニン症候群についての理解を深める一助となれば幸いです。何か気になる症状があれば、すぐに医師に相談しましょう。
パニック症について:第7回目
パニック症について:第7回目
パニック症の研究動向と最新の治療法
パニック症の理解と治療は、近年大きな進展を遂げています。ここでは、最新の研究動向と新たな治療法について詳述します。
最新の研究動向
1. 脳機能の研究
•機能的MRI(fMRI): パニック症の患者の脳活動を観察するために、機能的MRIが使用されています。研究により、パニック症患者は前頭前野や扁桃体の活動が異常であることが示されています。これらの脳領域の異常な活動は、不安や恐怖反応の制御に関連しています 。
•神経伝達物質の研究: セロトニンやGABA(ガンマアミノ酪酸)などの神経伝達物質がパニック症に関与していることが明らかになっています。特に、セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)の効果が示されており、これらの薬剤がセロトニンレベルを調整することで不安を軽減するメカニズムが解明されつつあります 。
2. 遺伝的要因の研究
•遺伝子解析: パニック症の遺伝的要因を解明するために、ゲノム解析が進められています。特定の遺伝子変異がパニック症の発症に関連していることが示されており、遺伝子治療の可能性が探られています 。
最新の治療法
1. 薬物療法の進展
•新しい抗不安薬: 従来のベンゾジアゼピン系薬物に代わる新しい抗不安薬が開発されています。これらの新薬は、依存性や副作用のリスクが低いとされています 。
•SSRIの改良: 新しいSSRIは、従来の薬剤よりも効果が高く、副作用が少ないとされています。これにより、患者の治疗の選択肢が広がっています 。
2. 非薬物療法の進展
•認知行動療法(CBT): CBTは引き続き有効な治療法として認められており、特にインターネットを介したオンラインCBTが注目されています。オンラインCBTは、アクセスのしやすさとコストの低減が利点です 。
•マインドフルネス療法: マインドフルネス瞑想やマインドフルネスに基づくストレス低減法(MBSR)が、パニック症の治療に有効であることが示されています。これにより、患者は自己の感情を観察し、ストレスを管理するスキルを身につけます 。
3. その他の治療法
•バイオフィードバック: バイオフィードバックは、患者が自分の身体の反応をモニタリングし、リラクゼーション技法を用いて制御する方法です。これにより、不安感を軽減する効果があります 。
•電気刺激療法: 経頭蓋直流電気刺激(tDCS)や反復経頭蓋磁気刺激(rTMS)などの電気刺激療法が、パニック症の新たな治療法として研究されています。これらの療法は、脳の特定の領域を刺激することで症状を緩和します 。
まとめ
パニック症の研究と治療は急速に進展しています。脳機能や神経伝達物質、遺伝的要因の研究により、パニック症の理解が深まり、新たな治療法が開発されています。薬物療法の進展に加えて、非薬物療法やバイオフィードバック、電気刺激療法など、さまざまな治療法が登場しており、患者に多様な選択肢を提供しています。これらの最新の治療法を適切に活用することで、パニック症の症状を効果的に管理し、生活の質を向上させることが可能です。