2026-08-08 08:41:00

夏バテを防ごう! 水分・栄養・睡眠で元気な夏を

夏バテを防ごう!

水分・栄養・睡眠で元気な夏を

毎年夏になると、

「何となくだるい」
「食欲がない」
「疲れが取れない」

という患者さんが増えてきます。

このような状態は、一般に**「夏バテ」**と呼ばれています。

夏バテは病名ではありませんが、暑さによる体への負担が積み重なることで起こる体調不良です。ちょっとした生活習慣の工夫で予防できることも少なくありません。

 

夏バテはなぜ起こるのでしょうか?

夏は高温多湿の環境が続きます。

汗をたくさんかくことで、水分や電解質(塩分など)が失われます。また、暑さで食欲が低下し、睡眠の質も悪くなりがちです。

その結果、

  • 水分不足

  • 栄養不足

  • 睡眠不足

  • 自律神経への負担

が重なり、体の回復が追いつかなくなります。

これが「だるい」「疲れやすい」「食欲がない」といった夏バテの症状につながります。

 

夏バテを防ぐ5つのポイント

① 水分をこまめにとりましょう

のどが渇いてからでは遅いことがあります。

少量ずつ、こまめな水分補給を心掛けましょう。

大量に汗をかいた時には、水分だけでなく塩分の補給も大切です。

※高血圧や心不全、腎臓病などで塩分制限中の方は、主治医の指示に従ってください。

② 毎食たんぱく質を

肉・魚・卵・大豆製品などのたんぱく質は、筋肉だけでなく免疫や体の修復にも欠かせません。

暑くても、毎食少しずつ取り入れましょう。

③ 主食も適量食べましょう

「夏はそうめんだけ」

という方も多いですが、それだけでは栄養が偏ってしまいます。

糖質は体の大切なエネルギー源です。

極端な糖質制限ではなく、自分に合った適量を心掛けましょう。

④ 野菜・果物も忘れずに

野菜や果物にはビタミンやミネラル、食物繊維が豊富に含まれています。

食欲がない時でも、彩りのよい副菜を一品添えるだけで栄養バランスが改善します。

⑤ 良い睡眠を

睡眠は最高の疲労回復法です。

寝室を涼しく保ち、エアコンも上手に利用しましょう。

「そうめんだけ」では栄養不足になりがちです

暑い日は冷たいそうめんがおいしく感じます。

しかし、そうめんだけでは、

  • たんぱく質

  • ビタミン

  • ミネラル

が不足しやすくなります。

おすすめは、

  • 鶏肉やささみ

  • 豆腐

  • 納豆

  • 野菜

を組み合わせることです。

「主食+たんぱく質+野菜」を意識するだけで、栄養バランスはぐっと良くなります。

食べた栄養は体のエネルギーになります

私たちの体では、食事から摂った栄養と酸素を利用してエネルギー(ATP)が作られています。

このエネルギーが、歩く、考える、体温を保つ、筋肉を動かすなど、日常のあらゆる活動を支えています。

夏バテはミトコンドリアだけが原因ではありませんが、水分・栄養・睡眠が十分であれば、体はエネルギーを効率よく作りやすくなります。

漢方薬も役立つことがあります

夏バテの症状や体質によっては、漢方薬が役立つことがあります。

代表的なものには、

清暑益気湯(せいしょえっきとう)

暑さで体力を消耗し、

  • 食欲がない

  • だるい

  • 夏やせ

などの方に用いられます。

補中益気湯(ほちゅうえっきとう)

体力が落ち、

  • 疲れやすい

  • 胃腸が弱い

  • 病後の体力低下

などに使われます。

六君子湯(りっくんしとう)

胃もたれや食欲不振が中心の方に向いています。

五苓散(ごれいさん)

水分バランスの乱れによる、

  • のどの渇き

  • 尿量減少

  • むくみ

  • 頭痛

などに用いられます。

漢方薬は体質や症状に合わせて選ぶことが大切です。自己判断で使用せず、医師や薬剤師に相談しましょう。

このような症状は早めに受診しましょう

次のような症状がある場合は、夏バテだけではなく熱中症や感染症などが隠れている可能性があります。

  • 水分が飲めない

  • 繰り返し吐いてしまう

  • 強いだるさで動けない

  • 高熱が続く

  • 尿がほとんど出ない

  • 意識がぼんやりする

早めの受診をおすすめします。

高齢者は特に注意

高齢になると、

  • のどの渇きを感じにくい

  • 暑さを感じにくい

ことがあり、知らないうちに脱水になっている場合があります。

エアコンを我慢せず、こまめな水分補給を心掛けましょう。

ご家族も、食事や水分摂取の様子を見守ってあげてください。

まとめ

夏バテは、暑さによる体への負担に加え、水分不足、栄養不足、睡眠不足などが重なって起こります。

予防の基本は、

  • こまめな水分補給

  • バランスの良い食事

  • 十分なたんぱく質

  • 良い睡眠

  • 暑さを我慢しないこと

です。

「少し疲れたから」と無理をせず、早めの休養を心掛けましょう。

症状が長引く場合や、食事や水分が十分に取れない場合は、他の病気が隠れていることもありますので、早めに医療機関へご相談ください。

2026-08-05 17:42:00

和MIND食 Vol.2 DHAは脳へ届く。それでも「DHAだけでは足りない」理由

 

和MIND食 Vol.2

DHAは脳へ届く。それでも「DHAだけでは足りない」理由

 

はじめに

前回の「和MIND食 Vol.1」では、DHAに関する最新研究をご紹介しました。

その研究では、DHAサプリメントを摂取すると、血液中だけでなく脳へもDHAが届くことが確認されました。

これは、とても重要な発見です。

一方で、認知機能を改善する効果は期待したほど大きくありませんでした。

「脳まで届くのに、なぜ記憶は改善しないのでしょうか。」

今回は、その理由について考えてみたいと思います。

DHAは「脳の材料」

脳は約60%が脂質でできています。

その中でもDHAは、神経細胞の膜を構成する重要な脂肪酸です。

神経細胞は、お互いに情報をやり取りしながら記憶を作っています。

そのため、細胞膜が健康であることは、とても大切です。

DHAは、その「材料」を補う役割を担っています。

材料だけでは家は建ちません

しかし、家を建てるには木材だけでは足りません。

基礎があり、

柱があり、

電気や水道が整って、

初めて家として機能します。

脳も同じです。

DHAという材料があっても、それだけでは記憶は十分に働きません。

記憶は「海馬」で作られる

新しい出来事を覚えるとき、中心となるのが海馬です。

海馬では、神経細胞同士の結びつきが強くなることで記憶が作られます。

この仕組みは長期増強(LTP)と呼ばれ、最近では「記憶スイッチ」と考えられています。

このスイッチを正常に働かせるためには、DHAだけでは十分ではありません。

記憶は栄養のチームプレー

現在の研究では、

記憶を支えるためには、

  • DHA

  • 亜鉛

  • ビタミンB12

  • 葉酸

  • ビタミンD

  • マグネシウム

など、多くの栄養素が協力して働いていることが分かってきました。

一つだけが特別なのではなく、それぞれが異なる役割を担っています。

つまり、

記憶は「栄養のチームプレー」なのです。

 

だから和MIND食

和MIND食は、

「この食品だけ食べれば認知症を防げる」

という考え方ではありません。

魚、

大豆、

野菜、

海藻、

きのこ、

果物、

ナッツ、

発酵食品……

さまざまな食品を組み合わせることで、脳に必要な栄養素をバランスよく補うことを目指しています。

一つのサプリメントではなく、

毎日の食卓全体で脳を支える。

それが和MIND食の考え方です。

 

おわりに

DHAは、脳にとって欠かせない栄養素です。

しかし、最新の研究が教えてくれたのは、

「DHAだけでは十分ではない」

ということでした。

認知症予防は、一つの栄養素を追い求める時代から、

さまざまな栄養素を組み合わせて脳を守る時代

へと変わりつつあります。

和MIND食は、その考え方を日々の食卓で実践するための一つの方法です。

次回予告

海馬には、脳の中でも特に多く存在するミネラルがあります。

それが亜鉛です。

近年、亜鉛は「記憶スイッチ」を支える重要な栄養素であることが分かってきました。

次回は、

「亜鉛は記憶スイッチを支えるミネラル」

をテーマに、最新の研究をご紹介します。

まとめ(Take Home Message)

✅ DHAは脳へも移行することが確認されています。

✅ しかし、DHAだけで認知機能が大きく改善することは証明されていません。

✅ 記憶は、一つの栄養素ではなく、多くの栄養素が協力して作られます。

✅ 和MIND食は、「栄養のチームプレー」で脳の健康を支える食事です。

保健室からひとこと

認知症予防の研究は、「この栄養素だけを摂れば安心」という時代から、「さまざまな栄養素をバランスよく摂ることが大切」という時代へと変わってきました。

和MIND食は、日本の伝統的な食文化を大切にしながら、最新の栄養学や認知症研究の知見を取り入れた食事スタイルです。

脳は一つの栄養素では育ちません。

毎日の食卓でさまざまな食品を組み合わせることが、10年後、20年後の脳の健康につながります。

参考文献

  1. Morris MC, Tangney CC, Wang Y, Sacks FM, Bennett DA, Aggarwal NT. MIND diet associated with reduced incidence of Alzheimer's disease. Alzheimer's & Dementia. 2015;11(9):1007-1014.
  2. 日本認知症学会 編. 認知症診療ガイドライン2023. 医学書院.
  3. World Health Organization. Risk reduction of cognitive decline and dementia: WHO guidelines. Geneva: WHO; 2019.
  4. Yassine HN, et al. CNS target engagement of high-dose DHA supplementation in older adults at risk for dementia: a randomised, double-blind, placebo-controlled trial. eBioMedicine. 2026;129:106316.(PreventE4 Study)DHAは脳へ到達したが、24か月では認知機能や脳容積の改善は認められなかった。

免責事項

本記事は健康や栄養に関する一般的な情報提供を目的としており、個々の診断や治療を代替するものではありません。認知機能の低下や物忘れが気になる場合は、医療機関へご相談ください。また、サプリメントの効果には個人差があり、過剰摂取は健康に影響を及ぼすことがあります。掲載内容は作成時点の医学的知見に基づいていますが、今後の研究や診療ガイドラインの改訂により内容が変更される場合があります。

2026-08-03 22:39:00

味覚障害と亜鉛 ~「味が分かりにくい」は体からのサインかもしれません~

 

味覚障害と亜鉛

~「味が分かりにくい」は体からのサインかもしれません~

この記事でわかること

・味覚障害の主な原因
・亜鉛と味覚の深い関係
・亜鉛以外に不足すると味覚障害を起こす栄養素
・味覚障害の検査と治療
・受診の目安

はじめに

「最近、食事がおいしく感じない」「味が薄く感じる」「しょうゆや塩を以前より多く使うようになった」──そんな症状はありませんか?

味覚障害は加齢だけが原因ではありません。亜鉛不足をはじめ、糖尿病、新型コロナウイルス感染後、薬の副作用、栄養不足など、さまざまな原因で起こります。

味覚は食事の楽しみだけでなく、栄養状態や健康状態を映し出す大切なサインです。

 

味覚はどのように感じているのでしょうか?

舌には「味蕾(みらい)」という味覚センサーがあります。

味蕾の中にある味細胞は、

・甘味
・塩味
・酸味
・苦味
・うま味

を感じています。

味細胞は、およそ10日~2週間ごとに新しい細胞へ生まれ変わっています。

この新陳代謝を支えている重要なミネラルが亜鉛です。

亜鉛が不足すると、

味細胞が十分に作られない

味を感じる力が低下する

味覚障害

という流れになります。

また、亜鉛は唾液中の酵素(炭酸脱水酵素VI:CA VI)の働きにも関わり、味蕾が正常に働くことを助けています。

味覚障害の原因

味覚障害の原因は一つではありません。

・亜鉛不足
・鉄不足
・ビタミンB12不足
・葉酸不足
・糖尿病
・新型コロナウイルス感染後
・薬の副作用
・口の乾燥(ドライマウス)
・加齢
・神経の病気
・脳の病気

また、「味が分からない」と感じても、実際には嗅覚障害が原因となっていることも少なくありません。

こんな症状はありませんか?

□ 食事がおいしくない

□ 味が薄く感じる

□ 塩やしょうゆを以前より多く使う

□ 食欲が落ちた

□ 口の中が苦い

□ 舌がヒリヒリする

□ 口内炎を繰り返す

どんな検査をするの?

味覚障害が疑われる場合には、

・症状やお薬の確認
・口の中の診察
・血液検査

などを行い、原因を調べます。

血液検査では必要に応じて

・亜鉛
・鉄・フェリチン
・ビタミンB12
・葉酸
・銅
・HbA1c(糖尿病)
・甲状腺機能

などを確認します。

※現在、当院では味覚検査および嗅覚検査は実施しておりません。必要に応じて耳鼻咽喉科などの専門医療機関をご紹介いたします。

治療

原因によって治療は異なります。

① 亜鉛不足

低亜鉛血症と診断された場合には、医療用亜鉛製剤による治療を検討します。

② 栄養不足

鉄やビタミンB12、葉酸など、不足している栄養素を補います。

③ 原因となる病気の治療

糖尿病や口腔乾燥、感染症など、それぞれの原因に応じた治療を行います。

④ 薬剤の見直し

副作用が疑われる場合は、自己判断で中止せず、主治医と相談しながら対応します。

日常生活で気をつけたいこと

・バランスの良い食事を心がける

・肉・魚・卵・大豆製品を十分に摂る

・極端なダイエットを避ける

・口腔内を清潔に保つ

・禁煙を心がける

・十分な水分を摂る

亜鉛を多く含む食品として

・牡蠣

・牛肉

・赤身肉

・チーズ

・大豆製品

・ナッツ類

などがあります。

よくある質問

Q.亜鉛サプリメントだけで治りますか?

軽い亜鉛不足では役立つこともありますが、味覚障害の原因は亜鉛不足だけではありません。症状が続く場合は原因を調べることが大切です。

Q.どれくらいで改善しますか?

味細胞は約10日~2週間ごとに新しく生まれ変わります。原因によって異なりますが、亜鉛不足による味覚障害では、改善まで数週間から数か月かかることがあります。

Q.亜鉛をたくさん飲めば早く治りますか?

いいえ。

亜鉛を過剰に摂取すると銅欠乏や貧血などを起こすことがあります。

自己判断で大量に服用することは避けましょう。

まとめ

✓ 味覚障害の代表的な原因の一つが亜鉛不足です。

✓ 味細胞は約10日~2週間ごとに生まれ変わり、その働きに亜鉛が重要です。

✓ 味覚障害の原因は、亜鉛不足だけではなく、鉄・ビタミンB12・葉酸不足、糖尿病、薬剤、新型コロナウイルス感染後などさまざまです。

✓ 症状が続く場合は、自己判断せず、原因を調べることが大切です。

保健室からひとこと

「味が分かりにくい」「食事がおいしく感じない」という症状は、栄養不足や全身の病気のサインであることがあります。

当院では、血液検査などを通して原因を調べ、亜鉛だけでなく鉄やビタミンB12などの栄養状態、糖尿病や服用中のお薬なども含めて総合的に評価し、一人ひとりに合った治療をご提案しています。

気になる症状が続く場合は、お気軽にご相談ください。

参考文献

・日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会「味覚障害診療の手引き」

・日本臨床栄養学会・日本病態栄養学会「亜鉛欠乏症診療ガイドライン」

・厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2025年版)」

免責事項

本記事は、味覚障害や亜鉛に関する一般的な医学情報を分かりやすくご紹介することを目的としています。症状や治療法は、年齢、基礎疾患、お薬の内容、栄養状態などによって異なり、すべての方に当てはまるものではありません。

味覚障害の原因には、亜鉛不足のほか、鉄やビタミンB12などの栄養不足、糖尿病、感染症、薬剤、口腔疾患、神経疾患などさまざまなものがあります。自己判断でサプリメントや医薬品を開始・中止することは避け、症状が続く場合は医療機関へご相談ください。

本記事は掲載時点の医学的知見に基づいて作成していますが、医学の進歩や診療ガイドラインの改訂により内容が変更される場合があります。

2026-07-22 06:32:00

GLP-1/GIP時代の「筋肉を守る」ダイエット

GLP-1/GIP時代の「筋肉を守る」ダイエット

体重だけでなく、「何を減らし、何を残すか」が大切です

肥満症や糖尿病の治療は、GLP-1受容体作動薬やGLP-1/GIP受容体作動薬の登場によって大きく変わりました。

なかでもチルゼパチドは、食欲を抑え、血糖を改善するとともに、大幅な体重減少が期待できる薬です。

しかし、体重が大きく減る時代になったからこそ、新しい問題も見えてきました。

それは、

「減った体重の中身は何か?」

という問題です。

肥満治療の本当の目的は、ただ体重計の数字を小さくすることではありません。

余分な脂肪を減らしながら、筋肉・筋力・動ける身体をできるだけ守る。

これが、これからの肥満治療で重要になる考え方です。

チルゼパチドで筋肉も減る?

チルゼパチドを用いた大規模臨床試験SURMOUNT-1の体組成解析では、減少した体重の内訳は、おおむね

約75%が脂肪量
約25%が除脂肪量(lean mass)

でした。

つまり、減った体重の大部分は脂肪です。

一方で、脂肪以外の組織もある程度減少することには注意が必要です。

ただし、ここでいう「除脂肪量」は、そのまま「筋肉量」を意味するわけではありません。除脂肪量には骨格筋だけでなく、体液や臓器なども含まれています。

したがって、

「チルゼパチドで減った体重の25%が筋肉だった」

と解釈するのは正確ではありません。

「筋肉が減る」だけでは説明できない

さらに興味深い研究があります。

2型糖尿病患者をMRIで詳しく調べたSURPASS-3 MRIの解析では、チルゼパチドによる体重減少に伴って筋肉の容積も減少しました。

しかし、その減少は、おおむね大幅な減量に伴って予測される範囲でした。

さらに、筋肉の中に入り込んでいた脂肪、いわゆる**筋内脂肪浸潤(myosteatosis)**は改善しました。

つまり、

筋肉の量はある程度減少する一方、筋肉内の余分な脂肪も減る

という変化が起きている可能性があります。

ただし、筋内脂肪が減ったからといって、筋力や歩行能力が必ず改善することまで証明されたわけではありません。

そのため、体重だけでなく、実際に「動ける身体」が維持できているかを見る必要があります。

問題は「薬が筋肉を溶かすこと」ではない

現在のところ、チルゼパチドが骨格筋を選択的に破壊する「筋毒性」を持つという確立した証拠はありません。

むしろ注意したいのは、薬によって食欲が大きく低下した場合です。

食欲が落ちる

食事量が減る

蛋白質も不足する

運動量も減る

筋肉への栄養と刺激が不足する

筋量・筋力・身体機能が低下する

という流れが起こる可能性があります。

つまり、

「食べなければ食べないほど、よく痩せる」

という考え方は危険です。

体重は減っても、必要な筋肉まで失ってしまえば、健康的な減量とは言えません。

 

特に筋肉に注意したい人

筋肉を守る対策は、特に高齢者で重要になります。

注意が必要なのは、高齢者、もともと筋肉や筋力が少ない人、フレイル傾向の人、運動習慣がない人、蛋白質摂取が少ない人、食欲が極端に低下した人、短期間に急激に体重が減っている人などです。

若い高度肥満の方が10kg減量する場合と、70~80歳代で筋肉量の少ない方が同じ10kg減量する場合では、同じ体重減少でも意味が違います。

高齢者では、

「何kg痩せたか」よりも「痩せたあとも元気に歩けるか」

の方が重要な場合があります。

 

筋肉を守る第1のポイント

蛋白質を確保する

GLP-1/GIP治療中は食事量が減りやすいため、「少ない食事の中で何を食べるか」が重要になります。

肉、魚、卵、大豆製品、乳製品などの蛋白質源を意識して確保します。

蛋白質の必要量は、年齢、体格、運動量、腎機能などによって異なります。一律に「○g食べればよい」と決めることはできません。

大切なのは、

必要な蛋白質と栄養を先に確保して、余分なエネルギーを減らす。

という考え方です。

食欲がないからといって、ほとんど食べずに体重だけを急速に落とす方法は勧められません。

筋肉を守る第2のポイント

「歩くだけ」ではなく筋肉を使う

筋肉を守るには、栄養だけでなく筋肉への刺激が必要です。

ウォーキングは健康にとても良い運動ですが、大幅な減量中の筋肉を守るには、筋肉に負荷をかける運動も重要です。

例えば、

  • 椅子からの立ち上がり

  • スクワット

  • かかと上げ

  • ゴムバンド運動

  • 筋力トレーニング

などです。

特に高齢者では、重いものを持ち上げることが目的ではありません。

立てる、歩ける、階段を上れる、転ばない。

この能力を維持することが大切です。

自宅でもできる「5回立ち上がりテスト」

下半身の筋力や身体機能を簡単に確認する方法の一つが、5回椅子立ち上がりテストです。

安定した椅子に座り、可能であれば腕を胸の前で組みます。そして、できるだけ速く「立つ・座る」を5回繰り返し、時間を測ります。

目安として、

10秒未満:良好
10~12秒:おおむね良好
12秒以上:身体機能低下に注意
15秒以上:より詳しい評価を検討

と考えます。

ただし、年齢や病気によって結果の意味は異なります。

また、1回の数字だけで判断するより、

治療前 9秒 → 3か月後 10秒 → 6か月後 13秒

のように、自分自身の変化を見ることが重要です。

体重が順調に減っていても、立ち上がる能力が明らかに低下しているなら、食事、蛋白質、運動、減量速度などを見直す必要があります。

転倒の危険がある方は、一人で行わないでください。

体重計だけで治療を評価しない

これからのGLP-1/GIP治療では、体重だけを見るのでは不十分です。

治療中には、

体重・腹囲・減量速度

食事量・蛋白質摂取

筋肉量

筋力

身体機能

を総合的に見ることが理想です。

可能であれば体組成計による測定に加えて、握力や5回立ち上がりテストなども役立ちます。

「何kg痩せたか」から「どう痩せたか」へ

GLP-1/GIP受容体作動薬によって、これまで難しかった大幅な体重減少が可能になってきました。

だからこそ、肥満治療の目標も変える必要があります。

体重を減らす

脂肪を減らす

脂肪を減らしながら、筋肉・筋力・身体機能を守る

という考え方です。

チルゼパチドによる治療では、減少する体重の主体は脂肪ですが、除脂肪量も一定程度減少します。

特に高齢者や筋力の低い方では、

栄養(特に蛋白質)の確保
+ 筋力運動
+ 身体機能のチェック

を治療とセットで考えることが大切です。

肥満治療の成功は、

「何kg痩せたか」だけでは決まりません。

余分な脂肪を減らし、代謝を改善し、動ける身体を残して痩せる。

これが、GLP-1/GIP時代に目指したい「質の高い減量」です。

※GLP-1/GIP受容体作動薬の適応や治療目標、栄養・運動療法は、年齢、糖尿病の有無、腎機能、筋力などによって異なります。治療中の方は、自己判断で薬の量を変更せず、主治医と相談しながら治療を進めてください。

 

2026-07-09 17:38:00

認知症予防の新しい考え方 ― 「和MIND食」を始めます ― 最新研究から見えてきた「炎症を抑える食事」の可能性 ―

認知症予防の新しい考え方 ― 「和MIND食」を始めます

― 最新研究から見えてきた「炎症を抑える食事」の可能性 ―

「料理は薬ではない。しかし、身体への情報である。」

私は日頃から、このように考えています。

認知症は、薬だけで防げる病気ではありません。

だからといって、「もう何もできない」というわけでもありません。

私たちが毎日口にする食べ物は、単に空腹を満たすものではありません。食事は腸内細菌や免疫、血糖、血管、そして脳へと絶えず情報を送り続けています。

近年、この考え方を裏付ける研究が次々と報告されています。そして今回、認知症予防の分野でも希望の持てる研究が発表されました。

 

脳に変化が始まっていても、食事はまだ間に合うかもしれない

2026年、JAMA Network Open に掲載された研究では、スウェーデンの60歳以上の住民1,865人(認知症のない成人)を最長15年間追跡しました。

カロリンスカ研究所の研究チームは、アルツハイマー病の血液マーカー(p-tau217、NfL、GFAP)がすでに高い人でも、炎症を起こしにくい食事を続けていた人ほど認知症を発症しにくいことを報告しました。

もちろん、この研究だけで「食事が認知症を防ぐ」と結論づけることはできません。観察研究であり、因果関係を証明したものではないからです。

しかし、この研究は私たちに大切なメッセージを伝えています。

脳の変化が始まっていても、生活習慣を見直す意味はあるかもしれない。

これは認知症予防に取り組む私たちにとって、大きな希望と言えるでしょう。

 

認知症は「脳だけ」の病気ではありません

アルツハイマー病というと、「アミロイド」という言葉を耳にする機会が増えました。

しかし現在では、認知症は一つの原因だけで起こる病気ではないと考えられています。

その背景には、

  • 慢性的な炎症

  • 動脈硬化や血管障害

  • 糖尿病・インスリン抵抗性

  • 腸内細菌の乱れ

  • 睡眠障害

  • 運動不足

  • 社会的孤立

など、全身に関わるさまざまな要因があります。

私は、

認知症は「脳だけの病気」ではなく、「全身の健康が最後に脳へ映し出される病気」

だと考えています。

腸、免疫、血管、筋肉、睡眠、そして社会とのつながり。

これらが互いに影響し合いながら、未来の脳をつくっているのです。

 

注目すべきは「抗炎症」という考え方

今回の研究が評価したのは、特定の食品ではありません。

「炎症を起こしにくい食事パターン」

です。

私は、この視点がこれからの認知症予防に最も重要だと考えています。

食品には流行があります。しかし、脳が本当に求めているのは流行の食品ではなく、

  • 炎症を抑える

  • 血管を守る

  • 血糖値を安定させる

  • 腸内環境を整える

という、生物学的な働きです。

この視点は、これからご紹介する「和MIND食の7つの柱」にもそのままつながっています。

 

日本人には、日本人に合った認知症予防食がある

認知症予防として有名なのが、MIND食や地中海食です。

どちらも優れた食事法ですが、そのまま日本人の食生活に取り入れるのは必ずしも容易ではありません。

私は以前から、

「日本人には、日本人の身体と文化に合った認知症予防食があってよいのではないか」

と考えてきました。

日本には、

  • 青魚

  • 大豆食品

  • 納豆・味噌などの発酵食品

  • 海藻

  • きのこ

  • 緑茶

  • 季節の野菜

という、世界に誇れる食文化があります。

これらは近年の研究でも、抗炎症作用や血管保護作用との関連が報告されている食品です。

私は、日本の食文化と最新の医学を組み合わせた認知症予防の考え方として、

「和MIND食」

を提案したいと思います。

 

和MIND食の7つの柱

和MIND食は、特別な健康食品ではありません。

毎日の食卓を少し整えるための「考え方」です。

① 炎症を抑える

青魚、えごま油、オリーブオイル、緑黄色野菜などを取り入れ、体の慢性炎症を抑えます。

② 腸内環境を育てる

納豆、味噌、海藻、きのこ、食物繊維などで腸内細菌を元気にします。

③ 血糖値を安定させる

白米や糖質は適量に。野菜から食べるなど「食べる順番」も大切です。糖尿病などで治療中の方は、主治医と相談しながら取り組みましょう。

④ 神経の栄養を補う

DHA、ビタミンB群、葉酸、ビタミンD、マグネシウムなど、脳の材料となる栄養素を意識します。

⑤ 筋肉を守る

魚、卵、大豆など、良質なたんぱく質を毎日しっかり摂り、フレイルを予防します。

⑥ 血管を守る

減塩を心掛け、高血圧・糖尿病・脂質異常症を適切に管理します。

⑦ 楽しく続ける

我慢する健康法は長続きしません。家族や仲間と食事を楽しみながら、無理なく続けることを大切にします。

 

食べることは、未来の脳への投資

今日の一食は、明日の血糖を変えます。

一週間の食事は、腸内環境を変えます。

一年の積み重ねは、血管を変えます。

そして、その積み重ねが、未来の脳をつくります。

だから私は、

「食べることは、未来の脳への投資である」

と考えています。

和MIND食とは、日本人の食文化を大切にしながら、科学的な視点で未来の脳を守ろうという、新しい暮らし方の提案です。

 

おわりに

認知症予防とは、特別な健康法を探すことではありません。

毎日の暮らしを少しずつ整えることです。

そして、その第一歩は毎日の食卓にあります。

これから、このブログでは不定期に「和MIND食」をシリーズとしてご紹介していきます。

次回は、和MIND食の中心ともいえる「なぜ「DHAだけ」では認知症は防げないのか」について、最新の研究を交えながら分かりやすく解説したいと思います。

未来の脳は、今日の食卓から育ちます。

ぜひ、一緒に「和MIND食」を始めてみませんか。

 

出典

Mrhar A, et al. Diet Quality and Dementia Risk in Older Adults With Alzheimer Pathology. JAMA Network Open. 2026;9(6):e2620254. doi:10.1001/jamanetworkopen.2026.20254(2026年6月25日オンライン公開)

本記事は一般的な健康情報の提供を目的としたものであり、個別の診断・治療に代わるものではありません。持病のある方や治療中の方は、自己判断で食事内容を大きく変更せず、主治医にご相談ください。