認知症の治療は、ここまで進んでいます
認知症の治療は、ここまで進んでいます
「認知症になったら、もう治療法はない」
今でも、そう思っている方は少なくありません。確かに、認知症を完全に治し、失われた記憶を元通りにする薬は、まだありません。
しかし現在では、症状を支える薬に加えて、早期アルツハイマー病の進行を遅らせる治療も始まっています。
ただし、認知症にはさまざまな原因があります。新しい薬が、すべての患者さんに使えるわけではありません。
大切なのは、まず原因と進行段階を正しく見極めることです。
認知症は一つの病気ではありません
認知症とは、記憶力や判断力などが低下し、生活に支障が生じている状態の総称です。
原因となる病気には、アルツハイマー型認知症、レビー小体型認知症、血管性認知症、前頭側頭型認知症などがあります。
原因によって、症状、経過、治療法、注意すべき薬が異なります。
「物忘れがあるから認知症の薬を飲む」というだけでは不十分です。
「治療できる物忘れ」を見逃さない
物忘れや判断力の低下があっても、すべてが脳の神経変性による認知症とは限りません。
甲状腺機能低下症、ビタミンB12や葉酸の欠乏、脱水、低ナトリウム血症、感染症、うつ病、睡眠時無呼吸症候群、薬の副作用などでも、認知症に似た症状が現れることがあります。
また、正常圧水頭症や慢性硬膜下血腫のように、手術によって改善する可能性のある病気もあります。
原因を治療することで、認知機能が改善する場合があります。
特に、数日から数週間で急に悪化した場合や、一日の中で状態が大きく変わる場合は、認知症の自然な進行ではなく、「せん妄」の可能性があります。
感染症、脱水、便秘、痛み、睡眠不足、薬の副作用などが隠れていることがあるため、早めの受診が必要です。
従来の認知症治療薬
アルツハイマー型認知症には、ドネペジル、ガランタミン、リバスチグミン、メマンチンなどの薬が使われます。
これらは、認知症を完全に治す薬ではありません。しかし、記憶、注意、意欲、日常生活機能を一定期間支え、症状の悪化を緩やかにする効果が期待できます。
「根本的に治す薬ではないから意味がない」というわけではありません。
本人が会話、食事、着替え、外出などを続けられる時間を保つことには、大きな意味があります。
一方で、吐き気、食欲低下、下痢、脈が遅くなる、めまい、興奮などの副作用が現れることがあります。年齢、体格、持病などを考慮し、少量から慎重に使用します。
早期アルツハイマー病の新しい治療
現在、日本では早期アルツハイマー病に対して、次の二つの新しい薬が使われています。
レカネマブ(商品名:レケンビ)
ドナネマブ(商品名:ケサンラ)
レケンビは原則として2週間に1回、ケサンラは原則として4週間に1回、医療機関で点滴します。
アルツハイマー病では、症状が現れるかなり前から、脳の中に「アミロイドβ」という蛋白質がたまります。
これらの薬はアミロイドβに結合し、脳内から取り除くように働きます。
「よくする薬」ではなく「進行を遅らせる薬」
それぞれの臨床試験では、新しい抗体薬によって、認知機能と生活機能が低下する速度が、平均して約2~3割緩やかになりました。
ここは、誤解しやすいところです。
「認知機能が2~3割よくなる」という意味ではありません。
治療を受けなかった場合と比べて、悪化する速度を約2~3割遅らせたという意味です。
点滴を受けて、すぐに物忘れが改善する薬ではありません。将来の低下を少しでも先に延ばし、現在の生活をできるだけ長く保つことが治療の目的です。
効果には個人差があり、治療を受けても病気の進行が完全に止まるわけではありません。
誰でも受けられる治療ではありません
新しい抗体薬の対象となるのは、原則として次の段階の患者さんです。
アルツハイマー病による軽度認知障害
軽度のアルツハイマー型認知症
さらに、アミロイドPETまたは髄液検査によって、脳にアミロイドβがたまっていることを確認する必要があります。
血液中のp-tau217などを調べる検査も進歩していますが、現時点では、血液検査だけで治療開始を決めるものではありません。
中等度以上に進行した認知症、アルツハイマー病以外の認知症、認知機能が正常な人には、原則として使用しません。
また、治療前と治療中に、複数回のMRI検査を受ける必要があります。
最も注意すべき副作用
抗体薬で最も注意が必要なのは、脳のむくみや小さな出血です。
これを「ARIA(アリア)」と呼びます。
多くは自覚症状がなく、MRI検査で初めて見つかります。しかし、まれに大きな脳出血や重い神経症状を起こすことがあります。
治療中に、強い頭痛、吐き気、急な物忘れの悪化、意識がぼんやりする、めまい、視力の変化、歩きにくさ、けいれん、手足の麻痺やしびれ、言葉の出にくさなどが現れた場合は、次回の受診日を待たず、治療を受けている医療機関へ連絡してください。
過去に脳出血を起こした人、MRIで小さな出血が多く見つかった人、血液を固まりにくくする薬を使用している人などでは、特に慎重な判断が必要です。
費用と通院について
抗体薬は公的医療保険の対象ですが、薬剤費だけでなく、点滴、診察、MRI、アミロイドPETや髄液検査などの費用がかかります。
実際の自己負担額は、年齢、所得、加入している医療保険によって異なります。高額療養費制度を利用できる場合もあります。
また、定期的な点滴とMRI検査が必要になるため、本人だけでなく、付き添う家族の時間や通院の負担も含めて考える必要があります。
治療効果だけでなく、副作用、費用、通院の負担まで含めて検討する治療です。
薬だけが認知症治療ではありません
新しい薬が登場すると、どうしても薬だけに注目が集まります。
しかし、認知症の治療で本当に守りたいのは、検査の点数ではなく、本人の生活です。
血圧、糖尿病、脂質異常症を治療する。無理のない運動を続ける。食事と睡眠を整える。難聴があれば補聴器を検討する。視力低下や睡眠時無呼吸があれば治療する。
さらに、人との会話や外出を続け、本人の役割や楽しみを残すことも大切です。
こうした日常的な取り組みが、認知機能と生活機能を支えます。
怒りや妄想にも理由があります
認知症では、怒りっぽさ、不安、不眠、幻覚、妄想、徘徊、無気力などが現れることがあります。
しかし、すぐに「認知症の症状だから」と決めつけてはいけません。
痛み、便秘、感染症、脱水、難聴、睡眠不足、薬の副作用、急な環境変化などが、症状を悪化させていることがあります。
本人を叱ったり、間違いを強く訂正したりすると、かえって不安や興奮が強くなることがあります。
ゆっくり話を聞く。
一度に一つだけ伝える。
できないことを責めない。
落ち着いて過ごせる生活のリズムをつくる。
薬を増やすよりも、こうした対応が有効なことも少なくありません。
本人のできることを奪わない
認知症と診断されると、家族は心配して、料理、買い物、金銭管理、外出などを、すべて代わりに行おうとします。
もちろん、火の消し忘れ、詐欺、交通事故などへの対策は必要です。
しかし、何もさせないことが安全とは限りません。役割や活動を失うと、意欲や筋力、判断力が、かえって低下することがあります。
できない部分だけを補い、できることは本人に続けてもらう。
これが、生活機能と尊厳を守る基本です。
「その人らしい時間」を守る
認知症治療の目的は、認知機能検査の点数だけをよくすることではありません。
自宅で暮らす。家族と食事をする。散歩や買い物に出かける。好きなことを楽しむ。自分の役割を持つ。
そのような「その人らしい時間」を、できるだけ長く守ることが本当の目標です。
新しい抗体薬は、早期アルツハイマー病の進行を遅らせる重要な選択肢です。しかし、認知症を元通りに治す薬ではなく、対象となる患者さんも限られます。
認知症の治療は、一本の点滴だけでは完成しません。
治療できる原因を探すこと。適切な薬を選ぶこと。運動、食事、睡眠を整えること。本人のできることを残すこと。そして、本人と家族の生活を地域全体で支えること。
これらを組み合わせることが、現在の認知症治療です。
※この記事は2026年9月時点の情報をもとに作成しています。治療の適応や副作用は、患者さんの状態によって異なります。新しい治療を希望される方は、かかりつけ医または認知症の専門医にご相談ください。
灰になるまで
灰になるまで
大岡越前に、こんな逸話が伝わっています。
ある不貞の男女を取り調べていたところ、男が言いました。
「女性のほうから誘われたのでございます」
ところが、その女性はかなりの高齢でした。大岡越前は、どうも腑に落ちません。「女性というものは、いくつになっても、そういう気持ちがあるものなのだろうか」
家に帰って、年老いた母親に尋ねました。
母親は何も答えません。ただ、火鉢の灰を火箸で静かにかき回したそうです。
それを見て越前は、「なるほど。灰になるまでか」と悟った――。
有名な話ですが、大岡忠相の史実として確認されたものではなく、後世に伝えられた逸話の一つのようです。それでも、なかなか味わいのある話です。
当院には、男性更年期やEDについて相談される患者さんがいらっしゃいます。
これまでで最高齢だったのは、90歳の男性でした。つい1年ほど前までは、奥様との夫婦生活があったそうです。しかし最近、それが難しくなってきた。それで相談に来られました。
血液検査をすると、総テストステロンは正常範囲でしたが、遊離テストステロンは2.0と低下していました。
一方、精巣に「もっとテストステロンを作りなさい」と指令を出すLHは15.0と上昇していました。PSAは0.5でした。
年齢を考えれば、身体には当然さまざまな変化が起こります。しかし興味深いのは、身体の老化と、人の気持ちは必ずしも同じ速度では進まないということです。
私たちは、高齢になっても食欲があれば「よく召し上がれますね」と喜びます。旅行に行けば「お元気ですね」、趣味を続けていれば「素晴らしいですね」と言います。
ところが性についてだけは、なぜか「もう、その年なのだから」となりがちです。
けれども性は、単に子どもをつくるためだけのものではありません。長く連れ添った夫婦にとっては、触れること、抱き合うこと、相手を異性として感じることも、大切なコミュニケーションの一つでしょう。
90歳のその男性も、若者に戻りたいわけではありません。
昨日まで当たり前にあった夫婦の時間が、最近うまくいかなくなった。だから医者に相談してみようと思った。
ただそれだけのことです。
医学はずいぶん進歩しました。人生100年時代ともいわれます。
それなら私たち医療者も、「何歳まで生きるか」だけでなく、「その年齢をどう生きるか」を考えなければならないのでしょう。
食べることも、歩くことも、眠ることも、人を好きでいることも。
年齢だけを理由に、どこかで線を引く必要はありません。
大岡越前の母親は、難しい医学用語を一つも使わず、それを火鉢一つで表現しました。
「灰になるまで」
昔の人は、ときどき驚くほど人間をよく見ています。
夏バテを防ごう! 水分・栄養・睡眠で元気な夏を
夏バテを防ごう!
水分・栄養・睡眠で元気な夏を
毎年夏になると、
「何となくだるい」
「食欲がない」
「疲れが取れない」
という患者さんが増えてきます。
このような状態は、一般に**「夏バテ」**と呼ばれています。
夏バテは病名ではありませんが、暑さによる体への負担が積み重なることで起こる体調不良です。ちょっとした生活習慣の工夫で予防できることも少なくありません。
夏バテはなぜ起こるのでしょうか?
夏は高温多湿の環境が続きます。
汗をたくさんかくことで、水分や電解質(塩分など)が失われます。また、暑さで食欲が低下し、睡眠の質も悪くなりがちです。
その結果、
-
水分不足
-
栄養不足
-
睡眠不足
-
自律神経への負担
が重なり、体の回復が追いつかなくなります。
これが「だるい」「疲れやすい」「食欲がない」といった夏バテの症状につながります。
夏バテを防ぐ5つのポイント
① 水分をこまめにとりましょう
のどが渇いてからでは遅いことがあります。
少量ずつ、こまめな水分補給を心掛けましょう。
大量に汗をかいた時には、水分だけでなく塩分の補給も大切です。
※高血圧や心不全、腎臓病などで塩分制限中の方は、主治医の指示に従ってください。
② 毎食たんぱく質を
肉・魚・卵・大豆製品などのたんぱく質は、筋肉だけでなく免疫や体の修復にも欠かせません。
暑くても、毎食少しずつ取り入れましょう。
③ 主食も適量食べましょう
「夏はそうめんだけ」
という方も多いですが、それだけでは栄養が偏ってしまいます。
糖質は体の大切なエネルギー源です。
極端な糖質制限ではなく、自分に合った適量を心掛けましょう。
④ 野菜・果物も忘れずに
野菜や果物にはビタミンやミネラル、食物繊維が豊富に含まれています。
食欲がない時でも、彩りのよい副菜を一品添えるだけで栄養バランスが改善します。
⑤ 良い睡眠を
睡眠は最高の疲労回復法です。
寝室を涼しく保ち、エアコンも上手に利用しましょう。
「そうめんだけ」では栄養不足になりがちです
暑い日は冷たいそうめんがおいしく感じます。
しかし、そうめんだけでは、
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たんぱく質
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ビタミン
-
ミネラル
が不足しやすくなります。
おすすめは、
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卵
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鶏肉やささみ
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豆腐
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納豆
-
野菜
を組み合わせることです。
「主食+たんぱく質+野菜」を意識するだけで、栄養バランスはぐっと良くなります。
食べた栄養は体のエネルギーになります
私たちの体では、食事から摂った栄養と酸素を利用してエネルギー(ATP)が作られています。
このエネルギーが、歩く、考える、体温を保つ、筋肉を動かすなど、日常のあらゆる活動を支えています。
夏バテはミトコンドリアだけが原因ではありませんが、水分・栄養・睡眠が十分であれば、体はエネルギーを効率よく作りやすくなります。
漢方薬も役立つことがあります
夏バテの症状や体質によっては、漢方薬が役立つことがあります。
代表的なものには、
清暑益気湯(せいしょえっきとう)
暑さで体力を消耗し、
-
食欲がない
-
だるい
-
夏やせ
などの方に用いられます。
補中益気湯(ほちゅうえっきとう)
体力が落ち、
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疲れやすい
-
胃腸が弱い
-
病後の体力低下
などに使われます。
六君子湯(りっくんしとう)
胃もたれや食欲不振が中心の方に向いています。
五苓散(ごれいさん)
水分バランスの乱れによる、
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のどの渇き
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尿量減少
-
むくみ
-
頭痛
などに用いられます。
漢方薬は体質や症状に合わせて選ぶことが大切です。自己判断で使用せず、医師や薬剤師に相談しましょう。
このような症状は早めに受診しましょう
次のような症状がある場合は、夏バテだけではなく熱中症や感染症などが隠れている可能性があります。
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水分が飲めない
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繰り返し吐いてしまう
-
強いだるさで動けない
-
高熱が続く
-
尿がほとんど出ない
-
意識がぼんやりする
早めの受診をおすすめします。
高齢者は特に注意
高齢になると、
-
のどの渇きを感じにくい
-
暑さを感じにくい
ことがあり、知らないうちに脱水になっている場合があります。
エアコンを我慢せず、こまめな水分補給を心掛けましょう。
ご家族も、食事や水分摂取の様子を見守ってあげてください。
まとめ
夏バテは、暑さによる体への負担に加え、水分不足、栄養不足、睡眠不足などが重なって起こります。
予防の基本は、
-
こまめな水分補給
-
バランスの良い食事
-
十分なたんぱく質
-
良い睡眠
-
暑さを我慢しないこと
です。
「少し疲れたから」と無理をせず、早めの休養を心掛けましょう。
症状が長引く場合や、食事や水分が十分に取れない場合は、他の病気が隠れていることもありますので、早めに医療機関へご相談ください。
和MIND食 Vol.2 DHAは脳へ届く。それでも「DHAだけでは足りない」理由
和MIND食 Vol.2
DHAは脳へ届く。それでも「DHAだけでは足りない」理由
はじめに
前回の「和MIND食 Vol.1」では、DHAに関する最新研究をご紹介しました。
その研究では、DHAサプリメントを摂取すると、血液中だけでなく脳へもDHAが届くことが確認されました。
これは、とても重要な発見です。
一方で、認知機能を改善する効果は期待したほど大きくありませんでした。
「脳まで届くのに、なぜ記憶は改善しないのでしょうか。」
今回は、その理由について考えてみたいと思います。
DHAは「脳の材料」
脳は約60%が脂質でできています。
その中でもDHAは、神経細胞の膜を構成する重要な脂肪酸です。
神経細胞は、お互いに情報をやり取りしながら記憶を作っています。
そのため、細胞膜が健康であることは、とても大切です。
DHAは、その「材料」を補う役割を担っています。
材料だけでは家は建ちません
しかし、家を建てるには木材だけでは足りません。
基礎があり、
柱があり、
電気や水道が整って、
初めて家として機能します。
脳も同じです。
DHAという材料があっても、それだけでは記憶は十分に働きません。
記憶は「海馬」で作られる
新しい出来事を覚えるとき、中心となるのが海馬です。
海馬では、神経細胞同士の結びつきが強くなることで記憶が作られます。
この仕組みは長期増強(LTP)と呼ばれ、最近では「記憶スイッチ」と考えられています。
このスイッチを正常に働かせるためには、DHAだけでは十分ではありません。
記憶は栄養のチームプレー
現在の研究では、
記憶を支えるためには、
-
DHA
-
亜鉛
-
ビタミンB12
-
葉酸
-
鉄
-
ビタミンD
-
マグネシウム
など、多くの栄養素が協力して働いていることが分かってきました。
一つだけが特別なのではなく、それぞれが異なる役割を担っています。
つまり、
記憶は「栄養のチームプレー」なのです。
だから和MIND食
和MIND食は、
「この食品だけ食べれば認知症を防げる」
という考え方ではありません。
魚、
大豆、
野菜、
海藻、
きのこ、
果物、
ナッツ、
発酵食品……
さまざまな食品を組み合わせることで、脳に必要な栄養素をバランスよく補うことを目指しています。
一つのサプリメントではなく、
毎日の食卓全体で脳を支える。
それが和MIND食の考え方です。
おわりに
DHAは、脳にとって欠かせない栄養素です。
しかし、最新の研究が教えてくれたのは、
「DHAだけでは十分ではない」
ということでした。
認知症予防は、一つの栄養素を追い求める時代から、
さまざまな栄養素を組み合わせて脳を守る時代
へと変わりつつあります。
和MIND食は、その考え方を日々の食卓で実践するための一つの方法です。
次回予告
海馬には、脳の中でも特に多く存在するミネラルがあります。
それが亜鉛です。
近年、亜鉛は「記憶スイッチ」を支える重要な栄養素であることが分かってきました。
次回は、
「亜鉛は記憶スイッチを支えるミネラル」
をテーマに、最新の研究をご紹介します。
まとめ(Take Home Message)
保健室からひとこと
参考文献
免責事項
味覚障害と亜鉛 ~「味が分かりにくい」は体からのサインかもしれません~
味覚障害と亜鉛
~「味が分かりにくい」は体からのサインかもしれません~
この記事でわかること
・味覚障害の主な原因
・亜鉛と味覚の深い関係
・亜鉛以外に不足すると味覚障害を起こす栄養素
・味覚障害の検査と治療
・受診の目安
はじめに
「最近、食事がおいしく感じない」「味が薄く感じる」「しょうゆや塩を以前より多く使うようになった」──そんな症状はありませんか?
味覚障害は加齢だけが原因ではありません。亜鉛不足をはじめ、糖尿病、新型コロナウイルス感染後、薬の副作用、栄養不足など、さまざまな原因で起こります。
味覚は食事の楽しみだけでなく、栄養状態や健康状態を映し出す大切なサインです。
味覚はどのように感じているのでしょうか?
舌には「味蕾(みらい)」という味覚センサーがあります。
味蕾の中にある味細胞は、
・甘味
・塩味
・酸味
・苦味
・うま味
を感じています。
味細胞は、およそ10日~2週間ごとに新しい細胞へ生まれ変わっています。
この新陳代謝を支えている重要なミネラルが亜鉛です。
亜鉛が不足すると、
味細胞が十分に作られない
↓
味を感じる力が低下する
↓
味覚障害
という流れになります。
また、亜鉛は唾液中の酵素(炭酸脱水酵素VI:CA VI)の働きにも関わり、味蕾が正常に働くことを助けています。
味覚障害の原因
味覚障害の原因は一つではありません。
・亜鉛不足
・鉄不足
・ビタミンB12不足
・葉酸不足
・糖尿病
・新型コロナウイルス感染後
・薬の副作用
・口の乾燥(ドライマウス)
・加齢
・神経の病気
・脳の病気
また、「味が分からない」と感じても、実際には嗅覚障害が原因となっていることも少なくありません。
こんな症状はありませんか?
□ 食事がおいしくない
□ 味が薄く感じる
□ 塩やしょうゆを以前より多く使う
□ 食欲が落ちた
□ 口の中が苦い
□ 舌がヒリヒリする
□ 口内炎を繰り返す
どんな検査をするの?
味覚障害が疑われる場合には、
・症状やお薬の確認
・口の中の診察
・血液検査
などを行い、原因を調べます。
血液検査では必要に応じて
・亜鉛
・鉄・フェリチン
・ビタミンB12
・葉酸
・銅
・HbA1c(糖尿病)
・甲状腺機能
などを確認します。
※現在、当院では味覚検査および嗅覚検査は実施しておりません。必要に応じて耳鼻咽喉科などの専門医療機関をご紹介いたします。
治療
原因によって治療は異なります。
① 亜鉛不足
低亜鉛血症と診断された場合には、医療用亜鉛製剤による治療を検討します。
② 栄養不足
鉄やビタミンB12、葉酸など、不足している栄養素を補います。
③ 原因となる病気の治療
糖尿病や口腔乾燥、感染症など、それぞれの原因に応じた治療を行います。
④ 薬剤の見直し
副作用が疑われる場合は、自己判断で中止せず、主治医と相談しながら対応します。
日常生活で気をつけたいこと
・バランスの良い食事を心がける
・肉・魚・卵・大豆製品を十分に摂る
・極端なダイエットを避ける
・口腔内を清潔に保つ
・禁煙を心がける
・十分な水分を摂る
亜鉛を多く含む食品として
・牡蠣
・牛肉
・赤身肉
・チーズ
・大豆製品
・ナッツ類
などがあります。
よくある質問
Q.亜鉛サプリメントだけで治りますか?
軽い亜鉛不足では役立つこともありますが、味覚障害の原因は亜鉛不足だけではありません。症状が続く場合は原因を調べることが大切です。
Q.どれくらいで改善しますか?
味細胞は約10日~2週間ごとに新しく生まれ変わります。原因によって異なりますが、亜鉛不足による味覚障害では、改善まで数週間から数か月かかることがあります。
Q.亜鉛をたくさん飲めば早く治りますか?
いいえ。
亜鉛を過剰に摂取すると銅欠乏や貧血などを起こすことがあります。
自己判断で大量に服用することは避けましょう。
まとめ
✓ 味覚障害の代表的な原因の一つが亜鉛不足です。
✓ 味細胞は約10日~2週間ごとに生まれ変わり、その働きに亜鉛が重要です。
✓ 味覚障害の原因は、亜鉛不足だけではなく、鉄・ビタミンB12・葉酸不足、糖尿病、薬剤、新型コロナウイルス感染後などさまざまです。
✓ 症状が続く場合は、自己判断せず、原因を調べることが大切です。
保健室からひとこと
「味が分かりにくい」「食事がおいしく感じない」という症状は、栄養不足や全身の病気のサインであることがあります。
当院では、血液検査などを通して原因を調べ、亜鉛だけでなく鉄やビタミンB12などの栄養状態、糖尿病や服用中のお薬なども含めて総合的に評価し、一人ひとりに合った治療をご提案しています。
気になる症状が続く場合は、お気軽にご相談ください。
参考文献
・日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会「味覚障害診療の手引き」
・日本臨床栄養学会・日本病態栄養学会「亜鉛欠乏症診療ガイドライン」
・厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2025年版)」
免責事項
本記事は、味覚障害や亜鉛に関する一般的な医学情報を分かりやすくご紹介することを目的としています。症状や治療法は、年齢、基礎疾患、お薬の内容、栄養状態などによって異なり、すべての方に当てはまるものではありません。
味覚障害の原因には、亜鉛不足のほか、鉄やビタミンB12などの栄養不足、糖尿病、感染症、薬剤、口腔疾患、神経疾患などさまざまなものがあります。自己判断でサプリメントや医薬品を開始・中止することは避け、症状が続く場合は医療機関へご相談ください。
本記事は掲載時点の医学的知見に基づいて作成していますが、医学の進歩や診療ガイドラインの改訂により内容が変更される場合があります。
