子どもの起立性調節障害とビタミンD 〜最新研究を踏まえた理解と対応〜
子どもの起立性調節障害とビタミンD 〜最新研究を踏まえた理解と対応〜
🧠 起立性調節障害(OD)とは?
-
起立時に血圧や心拍数の調整がうまくいかず、
-
めまい
-
立ちくらみ
-
動悸
-
倦怠感
などの症状が出る状態
-
-
学童期〜思春期に多く見られます
☀️ ビタミンDの役割
-
骨を強くするだけでなく、
-
免疫の調整
-
神経機能のサポート
-
自律神経のバランス調整
に関与しています
-
🔬 最新研究の紹介(Front Pediatr. 2025)
-
ODの子ども84人と健常児84人を比較
-
起立性調節障害のある群では、
-
ビタミンD(25(OH)D)濃度が有意に低い
-
自律神経系の調整に関与する物質(ACE2・Ang(1–7))も低い
-
-
→ ビタミンD欠乏が自律神経不調に関連する可能性
⚠️ 全てに当てはまるわけではない
-
一部の研究(例:STURDY試験)ではビタミンD補充の効果が限定的
-
ビタミンDは "原因" ではなく "関連" にとどまる可能性も
-
効果は個人差があるため、自己判断は禁物
✅ こんなときはビタミンD検査を検討
-
朝がつらくて起きられない
-
少しの動作で疲れやすい
-
めまいや集中力低下
-
日光を浴びる時間が少ない
🍳 ビタミンDを補うには?
方法 | 内容例 |
---|---|
日光浴 | 15〜30分、手足に日光を当てる |
食事から摂取 | 鮭、サバ、卵黄、きのこ類など |
サプリメント | 医師と相談の上、800〜2000 IU/日 |
📌 まとめ
-
ビタミンDは、起立性調節障害の背景に関与する可能性あり
-
必ずしも全例に当てはまるわけではなく、
"必要な人に、必要なだけ" が基本
📎 免責事項
本資料は、教育・啓発目的で作成されたものであり、診断や治療を目的としたものではありません。実際の症状や治療方針については、必ず医療機関の専門医にご相談ください。
「腸と脳はつながっている」——みかんと腸内細菌が“心の老化”を防ぐ可能性
🍊【医学的視点で読み解く】
「腸と脳はつながっている」——みかんと腸内細菌が“心の老化”を防ぐ可能性
🔍 はじめに:腸は“第二の脳”という真実
私たちの腸には、100兆個以上の腸内細菌が住み着いており、
単なる消化器官ではなく、免疫・代謝・さらには脳の機能にも深く関与しています。
こうした相互作用は「腸-脳相関(gut-brain axis)」と呼ばれ、
現在ではうつ病、認知症、フレイルなど、加齢に関連する疾患の新しい理解につながっています。
🧬 最新研究:柑橘類と“善玉菌”がうつ予防に?
2024年、ハーバード大学の研究チームが発表した注目の論文では、
柑橘類の摂取とうつ病リスクの低下が有意に関連していたことが明らかにされました。
🟧 研究の要点:
-
約3万人を対象にした大規模データで、柑橘類の摂取量が多い人は、うつ病の発症リスクが22%低かった。
-
腸内細菌の中でもFaecalibacterium prausnitzii(F. prausnitzii)(ファエカリバクテリウム・プラウスニッツィー)の存在量が多い人ほど、うつ病の発症が少なかった。
-
この菌が生産する「SAM(S-アデノシルメチオニン)」が、脳内神経伝達物質のバランスを整える可能性が示唆された。
🦠 F. prausnitziiとは?抗炎症作用+神経機能サポート菌
F. prausnitziiは、抗炎症性短鎖脂肪酸(酪酸)を産生する善玉菌として知られ、
これまで炎症性腸疾患・糖尿病・肥満など加齢関連疾患との関係が研究されてきました。
本研究ではそれに加え、精神状態にも影響を与える可能性が浮上しています。
🔗 なぜ“腸内細菌”が“うつ”と関係するのか?
そのカギとなるのが、SAM(S-アデノシルメチオニン)という代謝物。
-
SAMは、セロトニン・ドーパミンの合成に不可欠なメチル供与体。
-
うつ病ではSAM濃度が低下していることが知られており、臨床的には補充療法も実施されています。
-
F. prausnitziiがこのSAMを腸内で生産していることが、今回の研究で明確に示されました。
🍊 柑橘類が持つ“機能性成分”が菌を育てる
柑橘類(オレンジ・グレープフルーツ等)には、
-
ナリンゲニン
-
フォルモノネチン
といったフラボノイド系ポリフェノールが豊富に含まれており、
これらがF. prausnitziiの増殖を促進するプレバイオティクス的役割を果たしていると考えられます。
📌 専門家がすすめる生活習慣3選
生活習慣 | 解説 |
---|---|
🍊 毎日1〜2回、柑橘類を取り入れる | 生の果実がベスト。ジュースは果糖に注意。 |
🥦 食物繊維をしっかり摂取 | 腸内細菌の主なエネルギー源。海藻・豆類も有効。 |
🚫 加工食品を控える | 腸内環境悪化と炎症性サイトカイン増加の要因。 |
🧓 抗加齢医学の視点から見る本研究の意義
-
腸内環境の変化は、加齢に伴う気分変調・認知機能低下に影響を与える可能性があります。
-
今回の研究は、「加齢とともに変化する腸内細菌の構成を、食生活で修正できる」という希望を提示しています。
-
医学的介入なしで、自然食品を通じた予防的アプローチが可能である点が大きな意義です。
📝 まとめ:みかんは“心と脳のサプリメント”
「うつは心の問題」とされてきた常識が、いま科学的に再定義されつつあります。
✅ 腸を整えることが、心を整える。
✅ 食事が、脳とメンタルに直接作用する。
みかんを手に取るとき、
それは単なる果物ではなく、“未来の自分”をケアする選択肢かもしれません。
🔗 出典
-
Samuthpongtorn C et al., Microbiome, 2024. PMID: 39543781
心と体を整える新しい視点:機能性精神医学とは?
心と体を整える新しい視点:機能性精神医学とは?
今朝はウェブで、アメリカの精神科医ジェームズ・グリーンブラッド医師の講義を拝聴しました。
彼は『薬に頼らない個々に合ったうつ病治療』などの著書で知られ、精神疾患に対する栄養学的アプローチや統合医療の分野で世界的に高い評価を受けている医師です。
実は10年ほど前、彼が来日した際に東京で開催された講演会に参加したことがありました。そのときの感銘が忘れられず、今回改めて彼の講義に触れ、多くの気づきを得ました。
こうした経験を踏まえ、現代の日本における「心の医療」に、もうひとつの視点――機能性精神医学(Functional Psychiatry)――を提案したいと思います。
栄養不足が「心の不調」を引き起こす?
脳は、体重のわずか2%の器官でありながら、全身のエネルギーの20〜25%を消費しています。つまり、わずかな栄養の不足が、まず真っ先に脳に影響するのです。
以下のような栄養素は、脳と心の健康に深く関係しています:
-
ビタミンB12:不足すると疲労感、集中困難、不安、パニックなどが起こる
-
ビタミンD:気分の安定や免疫系に関与。現代日本では欠乏が非常に多い
-
マグネシウム:自律神経や睡眠、緊張緩和に重要
-
オメガ3脂肪酸:脳の構造と機能を支える。食の欧米化により不足傾向
-
アミノ酸:神経伝達物質(セロトニンやドーパミンなど)の材料になる
こうした栄養素が欠乏していないかを調べ、必要に応じて補うことは、症状の根本改善につながることがあります。
薬をやめたいけど、離脱症状がこわい方へ
「薬を減らそうとすると、かえって不安が増した」「頭が重くてやめられない」――こうした離脱症状には、個人差があります。
同じ薬を飲んでいても、スムーズに減らせる人とそうでない人がいるのはなぜか?
答えは、その人の栄養状態や代謝の違いにあります。
たとえば、セロトニンを合成するにはビタミンB6やマグネシウム、鉄などが必要です。これらが不足していれば、薬の効果が出にくくなるだけでなく、減薬時の反応も悪くなります。
機能性精神医学では、こうした代謝経路や酵素の働きを血液検査や遺伝子検査などで確認し、個別に対応した減薬支援を行うことができます。
サプリメントにも注意が必要です
最近では「GLP-1が増える」「ADHDが治る」といったサプリメントが話題になっています。
しかし、SNSやネット広告で見かける情報には科学的根拠が乏しいものも多く、
「誰かに効いた」ものが「あなたに効く」とは限りません。
むしろ、体質に合わないサプリメントの使用は、不安や不眠を悪化させることすらあります。サプリも“薬と同じく慎重に使う”という意識が必要です。
日本でも始まっている「心と体を同時に診る医療」
日本でも、栄養療法や機能性医学を取り入れる医師やクリニックが増えてきました。
「精神症状=こころの病気」と決めつけず、「脳という臓器のコンディション」を調べてみる。
そんな発想から出発することで、薬だけに頼らない治療や、再発しにくい体質づくりが可能になります。
最後に:こんな方に知ってほしい視点です
-
何をしても気分がすぐれないが、明確な病名がつかない方
-
抗うつ薬・抗不安薬を減らしたいけど不安な方
-
パニック発作や不眠が慢性的に続いている方
-
集中力の低下、物忘れ、気分の波に悩んでいる方
まずは血液検査からでもかまいません。心と体の“本当の関係”に気づくことで、新しい回復の道が開けるかもしれません。
この記事は情報提供を目的としており、診断や治療を代替するものではありません。症状に応じて専門医にご相談ください。
なぜ魚を食べないと心も体も不調になるのか?
なぜ魚を食べないと心も体も不調になるのか?最新研究から読み解く
私たちの食生活は、心と体の健康に深く関わっています。
特に最近、魚介類の摂取量と心身の不調との間に密接な関係があることが、最新の日本の研究で明らかになりました。
今回ご紹介するのは、若い日本人女性を対象にした研究結果。
この研究では、「原因がはっきりしない体の不調(未特定の身体的訴え)」と「抑うつ症状」が、魚や貝類の摂取量とどう関係しているかが詳しく調べられました。
魚を食べない若い女性ほど、心身の不調が多かった
研究の結果、魚介類を食べる量が少ない人ほど、未特定の身体的な不調や抑うつ症状が重い傾向にあることが判明しました。
具体的には、
-
体調不良や気分の落ち込みが少ないグループの魚介類摂取量は1日あたり約35g。
-
逆に、不調が強く抑うつ症状も重いグループでは、摂取量がわずか8g程度と、大きな差が見られたのです。
さらに、魚介類に多く含まれる以下の栄養素の摂取量も、不調の有無に応じて大きく違っていました。
-
EPA(エイコサペンタエン酸)
-
DHA(ドコサヘキサエン酸)
-
ビタミンD
-
ビタミンB₁₂
これらの栄養素は、いずれも脳の機能や免疫調整に重要な働きを持っており、不足すると心身の不調リスクが高まることがわかっています。
なぜ魚が重要なのか?科学的な背景
では、なぜ魚を食べることが心身の健康にこれほど重要なのでしょうか?
主な理由は次の3つです。
1. EPA・DHAが脳を守る
EPAやDHAは、魚油に豊富に含まれるオメガ-3脂肪酸です。
これらは脳細胞の膜成分となり、情報伝達をスムーズに保つ働きがあります。
また、炎症を抑える作用があり、慢性的な炎症が関与する抑うつ症状や未病を防ぐと考えられています。
2. ビタミンDの精神衛生作用
ビタミンDは「骨のビタミン」として有名ですが、近年は脳内の神経伝達物質の調整にも関わることが分かっています。
ビタミンD不足は、抑うつや不安症のリスクを高める要因の一つです。
3. ビタミンB₁₂の神経保護効果
ビタミンB₁₂は神経細胞の修復やエネルギー代謝に不可欠。
不足すると疲労感や集中力低下、メンタル不調を引き起こすリスクが高まります。
毎日の食事に、少しずつ魚を取り入れよう
今回の研究は、若い世代でも「魚不足」が心身に大きな影響を及ぼしていることを示唆しています。
忙しい現代生活の中でも、
-
週に2~3回、焼き魚や煮魚を食べる
-
サバ缶やツナ缶を活用する
-
刺身や寿司で手軽に取り入れる
といった工夫で、魚介類を無理なく食事に取り入れることが可能です。
「なんとなく体調が悪い」「気分が落ち込みやすい」という方は、ぜひ一度、食生活を見直してみてはいかがでしょうか。
小さな積み重ねが、心と体の健やかさを守る力になります。
参考文献
-
Suzuki T, Yoshizawa Y, Takano S. Extent of Unidentified Complaints and Depression Is Inversely Associated with Fish and Shellfish Intake in Young Japanese Women. Nutrients. 2025;17(7):1252. DOI: 10.3390/nu17071252
欧米における精神栄養学の歴史と批判
欧米における精神栄養学の歴史と批判
精神栄養学(Nutritional Psychiatry)は、食事や栄養が精神的健康に与える影響を探る学問分野であり、その基礎は20世紀中盤の正常分子医学(Orthomolecular Medicine)に遡ります。この分野の歴史は、エイブラム・ホッファー、カール・ファイファー、ジョナサン・ライトなど、多くの先駆者たちの研究と実践によって築かれてきました。
一方で、科学的根拠の不足や実践の限界が指摘されており、精神栄養学には一定の批判も存在します。本稿では、欧米における精神栄養学の歴史、成果、そして課題について詳述します。
1. 精神栄養学の歴史:正常分子医学からの出発
正常分子医学の台頭
• 1940年代〜1950年代にかけて、ライナス・ポーリング(Linus Pauling)が提唱した正常分子医学は、体内の化学的環境を最適化することで病気を予防・治療するという概念を基盤にしています。
• 精神栄養学もこの枠組みから発展し、特定の栄養素が精神疾患に与える影響を探る研究が行われるようになりました。
エイブラム・ホッファーとハンフリー・オズモンド
• 1950年代、ホッファーとオズモンドは統合失調症の治療に高用量のナイアシン(ビタミンB3)を用いるアプローチを試みました。
• 彼らは、アドレナリンが酸化して生成されるアドレノクロムが統合失調症の発症に関与すると仮定し、ナイアシンがその毒性を中和できると考えました。
• 成果: 一部の患者で症状改善が見られ、精神疾患における栄養療法の可能性を示しました。
• 課題: アドレノクロム仮説の科学的根拠は乏しく、医学界では広く受け入れられませんでした。
カール・ファイファーの貢献
• ファイファーは、精神疾患を化学的不均衡として捉え、栄養素(特に亜鉛やビタミンB6)による補正を提案しました。
• ピロール尿症(Pyroluria)など、栄養不足が精神疾患に与える影響を研究しましたが、これも主流医学では十分な支持を得ていません。
2. 精神栄養学の拡大:多様なアプローチの登場
ミハエル・レッサーとリチャード・カニン
• ミハエル・レッサー(Michael Lesser):
• 栄養療法を活用した精神疾患の治療法を広めたパイオニア。
• 著書『Nutrition and Vitamin Therapy』で、うつ病、不安症、ADHDなどへの栄養療法の可能性を解説しました。
• 課題: 高用量栄養素の使用について、安全性や有効性のエビデンスが不足しています。
• リチャード・カニン(Richard Kanning):
• ケトジェニックダイエット(高脂肪・低糖質食)が精神疾患に与える効果を研究。
• 成果: ケトン体が神経保護作用を持つ可能性を提案。
• 課題: ダイエットの長期的安全性や全ての患者に適用可能ではない点が批判されています。
ジョナサン・ライトの役割
• 栄養生化学の専門家として、栄養素が神経伝達物質やホルモンバランスに与える影響を解明しました。
• 臨床実践:
• トリプトファンや葉酸などを用いて、精神疾患や気分障害を改善する治療法を実践。
• 腸内環境の改善を含む統合的アプローチを採用しました。
3. 現代の精神栄養学とニュートリゲノミクスの統合
ニュートリゲノミクスの登場
ニュートリゲノミクス(Nutrigenomics)は、栄養が遺伝子発現に与える影響を解明する分野であり、精神栄養学を個別化医療へと進化させました。
• MTHFR遺伝子変異:
• 葉酸の代謝が低下し、不安症やうつ病のリスクを高める可能性がある。
• メチル化葉酸の補充が治療に有効。
• COMT遺伝子変異:
• 神経伝達物質の代謝速度に影響し、ストレス応答や気分障害に関連。
腸脳相関(Gut-Brain Axis)の研究
• 腸内細菌叢が精神疾患に与える影響を研究する新たな視点。
• 発酵食品やプレバイオティクスが腸内環境を改善し、精神的健康を支える可能性が示されています。
4. 精神栄養学への批判と課題
科学的エビデンスの不足
• 精神栄養学の多くの理論や治療法は、観察的研究や小規模試験に基づいており、大規模なランダム化比較試験(RCT)が不足しています。
過剰摂取のリスク
• 高用量ビタミンやミネラルの使用は、副作用や健康リスクを伴う可能性があります。
• 例: ナイアシンの過剰摂取による肝機能障害、ビタミンCの過剰摂取による腎結石。
個別化治療のコスト
• 遺伝子検査や個別化栄養療法は費用が高く、一般的な治療法として普及するにはコスト削減が課題です。
5. 精神栄養学の未来と可能性
精神栄養学は、正常分子医学から発展し、ニュートリゲノミクスの導入により科学的根拠に基づく個別化医療の枠組みを構築しつつあります。この分野の未来には以下のような展望があります:
1. 科学的エビデンスの強化:
• 大規模なRCTやメタアナリシスを通じて、治療法の有効性を確立する。
2. 普及のためのコスト削減:
• 遺伝子検査や栄養療法のコストを下げ、多くの患者が利用できる体制を整える。
3. 統合医療の一環としての採用:
• 栄養療法を従来の薬物療法と統合し、患者の全体的な健康を支える。
結論
欧米における精神栄養学の歴史は、正常分子医学に始まり、栄養素の精神疾患への応用を探る努力によって発展してきました。一方で、科学的エビデンスの不足や治療法の標準化の難しさといった課題も残されています。
しかし、ニュートリゲノミクスや腸脳相関の研究が進むことで、精神栄養学は新たな段階に進みつつあります。今後の研究と実践の進展により、この分野が心と体を統合的に理解し、より効果的な治療法を提供するための重要な柱となることが期待されます。