男性更年期(LOH症候群)とは?テストステロン補充療法でできること
40代以降の男性に増えている「男性更年期(LOH症候群)」とは?
「最近、やる気が出ない」「性欲が落ちた」「疲れが抜けにくい」…
40代以降の男性で、こうした不調を感じている方は少なくありません。
これらは、加齢男性性腺機能低下症候群(LOH症候群)と呼ばれる男性更年期のサインかもしれません。
男性ホルモン「テストステロン」が減るとどうなる?
男性ホルモンの一種であるテストステロンは、20代をピークに徐々に減少します。
テストステロンには、次のような男性らしさを維持する役割があります。
- 性欲や勃起力の維持
- 筋力や骨密度を保つ
- やる気や集中力を保つ
- 脂肪をため込みにくくする
このテストステロンが減少すると、身体的・精神的な不調が現れます。
これが、男性更年期(LOH症候群)です。
こんな症状があれば要注意
以下のような症状があれば、男性ホルモンの低下が関係している可能性があります。
✅ 性欲や勃起力が低下
✅ 以前のような「やる気」が出ない
✅ 集中力が続かない
✅ 疲れが抜けにくい
✅ 筋肉が減り、脂肪がつきやすい
✅ 気分が落ち込みがち
✅ ほてりや多汗
男性更年期の診断にはホルモン検査が必要
症状があっても、必ずしもホルモン低下が原因とは限りません。
そのため、血液検査でテストステロン値を測定する必要があります。
検査項目 | 基準値(目安) |
---|---|
総テストステロン | 250ng/dL未満 |
遊離テストステロン | 7.5pg/mL未満 |
この基準以下なら、「LOH症候群」の可能性が高くなります。
男性更年期の治療法「テストステロン補充療法(TRT)」
テストステロンが実際に不足している、または症状が強い場合には、
テストステロン補充療法(TRT)を行います。
TRTで期待できる効果
- 性欲・勃起力の回復
- やる気・集中力アップ
- 筋肉量増加・体脂肪減少
- 抑うつ気分の改善
- 骨密度の改善
日本で行われる補充療法
日本で一般的に行われる補充療法は、次の2種類です。
方法 | 特徴 | 保険適用 |
---|---|---|
筋肉注射 | 2~4週間ごとに注射 | ◯(保険適用) |
ジェル | 毎日皮膚に塗る | ✕(自費診療) |
ポイント
- まずは保険適用の筋注からスタートするのが一般的
- ジェルは自宅でケアできるが、自費診療になります
TRTの副作用や注意点
補充療法には効果だけでなく、いくつかのリスクもあります。
主な注意点
-
前立腺がんや前立腺肥大の悪化
→ PSA検査を定期的に実施 -
血液が濃くなる(多血症)
→ ヘマトクリットを定期チェック -
にきび・脂性肌
→ 皮膚トラブルに注意 -
睡眠時無呼吸の悪化
-
精子が減る(不妊の可能性)
→ 将来の妊娠を希望する方は要相談
治療の流れ
ステップ | 内容 |
---|---|
① 初診 | 症状チェック+血液検査 |
② 結果説明 | 診断+治療方法の選択 |
③ 補充療法スタート | 筋注またはジェル |
④ 定期フォロー | 3ヶ月ごとに血液検査+診察 |
費用について
診療・治療内容 | 保険適用 | 自費 |
---|---|---|
診察・検査 | ◯ | 10,000円前後 |
筋肉注射(1回) | ◯ | 約5,000円 |
ジェル1ヶ月分 | ✕ | 約10,000~15,000円 |
まとめ
「年だから仕方ない…」と諦めていた不調、男性ホルモンの低下が原因かもしれません。
適切な治療を行えば、性欲・活力・健康を取り戻すことも十分可能です。
「もしかして?」と思ったら、一度ご相談ください。
テストステロン補充療法におけるPSA測定の重要性
テストステロン補充療法におけるPSA測定の重要性
テストステロン補充療法(Testosterone Replacement Therapy, TRT)は、加齢やその他の要因による低テストステロン状態(低T症候群)の治療法として広く行われています。筋肉量の増加、エネルギーレベルの改善、性欲の回復といった効果が期待されますが、その一方で、安全性に関する懸念も存在します。その中でも特に重要なのが、前立腺の健康に関するリスクです。
TRTを行う前に必ず確認すべき項目の一つが、PSA(前立腺特異抗原)値の測定です。この記事では、TRTにおけるPSA測定の重要性を解説します。
テストステロンと前立腺癌の関係
まず、テストステロン補充療法が前立腺癌に与える影響について、科学的な知見を整理します。
1. 正常な前立腺細胞の癌化の可能性は低い
多くの研究で、正常な前立腺細胞がテストステロン補充によって直接的に癌化するリスクはほぼ否定されています。この点において、TRTは比較的安全とされています。
2. 既存の前立腺癌への影響
しかし、すでに前立腺癌が存在する場合、話は異なります。
テストステロンは前立腺組織の成長を促進するホルモンであるため、未発見の前立腺癌を悪化させる可能性があります。このため、TRTを開始する前に前立腺癌がないことを確実に確認する必要があります。
3. 低テストステロンと前立腺癌の悪性度
興味深いことに、低テストステロン状態の人が罹患する前立腺癌は、悪性度が高いことが指摘されています。これにより、低テストステロンの患者におけるPSA測定と前立腺癌スクリーニングの重要性がさらに高まります。
PSA測定の重要性
PSA(前立腺特異抗原)は、前立腺から分泌されるタンパク質で、血中濃度が上昇している場合、前立腺癌や前立腺肥大症、炎症などの可能性が示唆されます。TRTを安全に行うためには、以下の理由からPSA測定が不可欠です。
1. 基準値の確認と経過観察
TRTを行う前に、PSA値を測定し、基準値を確立しておくことが重要です。治療中は定期的にPSA値をモニタリングすることで、異常の早期発見が可能となります。
2. PSAが2.5以上の場合の対応
PSA値が2.5を超える場合、泌尿器科医への紹介が推奨されます。特に、PSAが高値であるにもかかわらず治療を開始すると、未発見の前立腺癌が進行するリスクがあります。
3. 家族歴のある患者のリスク管理
前立腺癌の家族歴がある患者では、PSA値が基準範囲内であっても、さらに慎重な管理が必要です。この場合、PSAだけでなくMRIや前立腺生検を考慮することもあります。
実際の診療における対応
TRTを行う際には、以下の手順を徹底することが推奨されます。
1. TRT開始前のPSA測定
PSA値を測定し、基準値を記録する。特に50歳以上や家族歴のある患者では、初期段階での評価が重要です。
2. TRT中の定期的なモニタリング
TRTを開始した後も、定期的にPSAを測定します。PSA値が急激に上昇した場合や、増加速度(PSAダブリングタイム)が速い場合は、早急に専門医に相談します。
3. 前立腺癌のスクリーニング
高リスク患者(家族歴や以前の異常値がある場合)には、PSAに加えてMRIや直腸診を含むスクリーニングを実施します。
まとめ
テストステロン補充療法は、多くの患者にとって生活の質を向上させる可能性のある有用な治療法です。しかし、前立腺癌のリスクを見逃さないためには、PSA測定が不可欠です。TRTを検討する際には、医師と相談の上、リスク評価をしっかり行い、安全な治療計画を立てることが大切です。
患者としても、PSA値や前立腺の健康について理解を深め、必要な検査を積極的に受ける姿勢が求められます。
参考文献:
• J Sex Med. 2022 Mar; 19(3): 471-478.
• その他、最新の泌尿器科ガイドライン
テストステロン補充療法による造精機能障害について
テストステロン補充療法による造精機能障害について
テストステロン補充療法(Testosterone Replacement Therapy: TRT)は、低テストステロン症(Low-T)に苦しむ男性に対してホルモンバランスを改善し、生活の質を向上させるための治療法です。しかし、この治療法にはいくつかの副作用が存在し、その中でも特に注目すべきなのが造精機能障害です。本記事では、この問題について詳しく解説します。
1. テストステロン補充療法と造精機能の関係
テストステロン補充療法は、外部からテストステロンを補充することで血中のテストステロン濃度を上昇させます。しかし、これにより以下のような生理学的変化が起こります:
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ゴナドトロピンの抑制
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テストステロン補充により、視床下部-下垂体-精巣軸(HPT軸)が抑制されます。
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ゴナドトロピン放出ホルモン(GnRH)の分泌が低下し、結果として黄体形成ホルモン(LH)と卵胞刺激ホルモン(FSH)の分泌が減少します。
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精子形成の抑制
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FSHとLHの低下により精巣での精子形成(造精機能)が抑制されます。
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長期間の治療によって精巣萎縮や無精子症を引き起こす可能性があります。
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2. 造精機能障害の発症時期と回復可能性
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発症時期
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テストステロン補充療法を開始して約10週間後に、精巣の萎縮や精子形成の抑制が認められるケースがあります。
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回復可能性
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補充療法を中止することで、6か月から24か月の期間を経て造精機能が回復するとの報告があります。
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ただし、一部では乏精子症(精子の数が非常に少ない状態)や無精子症(精子が全く存在しない状態)のまま回復しないケースも存在します。
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3. 生殖能力を維持するための代替療法
テストステロン補充療法の代わりに、以下の治療法が生殖能力を維持するために使用されることがあります:
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クロミフェン療法
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クロミフェンは視床下部のエストロゲン受容体を遮断し、GnRH、LH、FSHの分泌を促進します。
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自然なテストステロン産生を維持しながら精子形成を促進する効果があります。
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ゴナドトロピン療法(hCG療法)
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hCG(ヒト絨毛性ゴナドトロピン)はLH様の作用を持ち、精巣に直接働きかけてテストステロンと精子形成を促進します。
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治療開始前の精子凍結保存
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生殖能力への影響を懸念する場合、治療前に精子を凍結保存する選択肢もあります。
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4. 注意点と今後の対策
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モニタリングの重要性
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治療中は定期的なホルモン値(テストステロン、LH、FSH)の測定や精液検査を実施することで、造精機能への影響を把握します。
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個別化医療の実践
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患者の年齢、目的(生殖能力の維持か生活の質向上か)を考慮し、最適な治療法を選択します。
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教育とカウンセリング
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患者に治療のリスクとベネフィットを十分に説明し、生殖能力に対する影響について理解を促します。
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5. 結論
テストステロン補充療法は、低テストステロン症の症状を改善する有効な治療法ですが、生殖能力に重大な影響を及ぼす可能性があります。治療を検討する際は、患者個人の状況を十分に考慮し、適切な治療法を選択することが重要です。医師と相談の上で、慎重に治療計画を立てることをお勧めします。
低テストステロン血症患者におけるクロミッド治療の症例
低テストステロン血症患者におけるクロミッド治療の症例
背景:
低テストステロン血症は男性更年期障害の一因となり、抑うつ気分や不安感、疲労感、筋力低下などの精神的および身体的症状を伴うことがあります。妊孕性を維持したい場合、テストステロン補充療法は選択が難しいため、クロミッド(クエン酸クロミフェン)を用いた治療が選択肢となることがあります。
症例:
• 患者: 50代男性
• 主訴: 抑うつ気分、疲労感、筋肉痛
• 初診時ホルモン値:
• 遊離テストステロン (FT): 3.4 pg/mL
• FSH: 7.5 mIU/mL
• LH: 4.5 mIU/mL
治療経過:
クロミッドを10日間服用(用量は1回25mg)後、以下の変化が見られました。
• 治療後ホルモン値:
• 遊離テストステロン (FT): 5.1 pg/mL
• FSH: 13.9 mIU/mL
• LH: 13.9 mIU/mL
患者はホルモン値の改善とともに疲労感が軽減しましたが、視覚障害(霞目)が出現したため、治療を中止しました。
考察:
クロミッドは視床下部-下垂体-精巣軸を刺激することで内因性テストステロン産生を促進し、妊孕性を維持しながら低テストステロンを改善する治療法です。本症例では短期間でホルモン値の改善と症状の軽減が認められましたが、副作用の出現により治療継続が困難となりました。
費用について:
クロミッドを用いた男性更年期治療は健康保険の適用外であり、自費診療となります。そのため、治療にかかる費用については事前に十分な説明が必要です。
結論:
クロミッドは妊孕性を維持したい低テストステロン血症患者への治療選択肢として有用ですが、副作用リスクと費用負担を考慮しつつ、患者に応じた慎重な治療が求められます。
テストステロン補充療法:利点と慎重な管理の必要性
テストステロン補充療法:利点と慎重な管理の必要性
テストステロン補充療法(TRT)は、必要な患者さんにとって多くの利点を提供しますが、その効果を安全に享受するためには慎重な監視と管理が必要です。
利点
1. 生活の質の改善:TRTは性欲の減退、筋力の低下、疲労感など、低テストステロンに関連するさまざまな症状を改善します。
2. 精神健康の支援: TRTは気分の向上や抑うつの減少に寄与し、全体的な精神健康を改善する効果があります。
3. 骨密度の向上:低テストステロンは骨粗鬆症のリスクを高める可能性がありますが、TRTは骨密度を改善し、骨折のリスクを減少させることができます。(ただし、元気になり活動性が高まることにより、骨折のリスクが高まる、というデータもあります)
リスクと管理
テストステロン補充療法には、心血管疾患、急性腎障害、深部静脈血栓症といったリスクが高まる場合があります。これらのリスクを管理するために、以下の検査が定期的に推奨されます:
1. 血液検査: テストステロンレベル、ヘマトクリット値、肝機能指標、腎機能指標を監視し、適切な治療量を調整します。
2. 心電図: 心房細動などの心血管状態を評価します。
3. 血圧測定: テストステロン補充療法により血圧が上昇することは議論がありますが、通常はモニターします。
4. 脂質プロファイル:心血管リスクをさらに評価するために行います。
TRAVERSE試験の結果によると、テストステロン補充療法が心血管リスクを顕著に増加させるわけではないものの、特定の副作用には注意が必要であり、これが慎重な監視の重要性を強調しています【参考: TRAVERSE試験】。
治療形態とそのリスク
注射剤: 効果が迅速である一方で、2週間から1ヶ月ごとの定期的な投与が必要です。心血管リスクや血栓の管理が特に重要です。
塗布剤: 日常的に使用する必要があり、血中濃度の変動が少ないが、自費診療となるためコストの負担が大きくなります。
まとめ
テストステロン補充療法は、特に低テストステロンによる生活の質の低下を経験している男性にとって、有効な治療選択肢です。しかし、この治療は心血管疾患や腎障害、血栓のリスクを含む多くの潜在的リスクを伴うため、定期的な医療チェックを通じて慎重に管理することが重要です。患者さんは医師と密接に連携し、治療前に十分なリスク評価と合意形成を行い、定期的なフォローアップを怠らないようにすべきです。