【GLP-1受容体作動薬とNAION:視力喪失リスクはあるのか?
【GLP-1受容体作動薬とNAION:視力喪失リスクはあるのか?】
▶ はじめに
近年、GLP-1受容体作動薬(GLP-1 RAs)は、2型糖尿病のみならず肥満症の治療薬としても急速に普及しています。セマグルチド(オゼンピック、ウゴービ)などの登場により、多くの人が減量や血糖コントロールのために使用しています。
その一方で、一部の報告ではGLP-1薬の使用中に「突然の視力喪失」が発生した症例が見られ、特に「非動脈炎性前部虚血性視神経症(NAION)」との関連が懸念されています。
▶ NAIONとは?
NAION(Non-Arteritic Anterior Ischemic Optic Neuropathy)は、視神経の前部における血流不足によって発症する疾患です。
突然の視野欠損や視力低下が起こり、治療しても視力が回復しにくいことが多いため、予防が非常に重要です。
主なリスク因子は以下のとおりです:
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糖尿病、高血圧、脂質異常症
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睡眠時無呼吸症候群(OSA)
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小視神経乳頭(解剖学的要因)
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夜間低血圧や降圧薬の使用
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50歳以上の年齢層
▶ GLP-1薬はNAIONのリスクを高めるのか?
現時点で、GLP-1薬がNAIONの発症リスクを4〜7%増加させる可能性があるという報告が一部ありますが、これは主に症例報告や薬剤有害事象データベース(FAERSなど)に基づくものであり、因果関係を証明するエビデンスはまだ不十分です。
ただし、GLP-1薬の生理作用として、
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急激な体重減少
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食欲不振による脱水
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血圧低下(特に夜間)
などが生じる場合、これらがNAIONの引き金となることは生理学的に妥当な仮説といえます。
▶ 糖尿病がない人でも注意が必要?
GLP-1薬を減量目的で使用している非糖尿病者でも、体重の急激な変化や血行動態の変化が起きれば、視神経の循環障害を招く可能性は理論上否定できません。
特に以下のような人は注意が必要です:
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睡眠時無呼吸症候群の既往がある
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もともと低血圧気味
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過去に視神経の病歴がある
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夜間に降圧薬を服用している
▶ 関連文献
以下の論文では、NAIONの臨床経過と予後について詳述されています:
Tonagel F et al.
Individual Prognosis and Clinical Course of Nonarteritic Anterior Ischemic Optic Neuropathy.
J Neuroophthalmol. 2025. PMID: 40622193
116眼を対象とした解析で、視神経乳頭の腫脹パターン(特に環状浮腫)が視力予後に強く関与することを報告。GLP-1薬の影響は言及されていないが、NAIONの病態理解に重要な知見。
▶ まとめ
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GLP-1薬とNAIONとの直接的な因果関係はまだ確立されていない
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しかし、血圧や循環に影響を与える薬剤である以上、既存のNAIONリスク因子を持つ人は注意が必要
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視力や視野に異常を感じた場合は、眼科受診を最優先に