うつ病と肥満症の共通点とGLP-1/GIP受容体作動薬による治療
うつ病と肥満症の共通点とGLP-1/GIP受容体作動薬による治療
はじめに
うつ病と肥満症は現代社会で深刻な健康問題となっており、その有病率は年々増加しています。一見無関係に見える両者ですが、実は共通する病態生理が存在し、相互に悪化のリスク因子となり得ます。本記事では、うつ病と肥満症の共通の生物学的背景をやさしく解説し、近年注目を集めるGLP-1受容体作動薬、さらに新しいGIP/GLP-1受容体作動薬についても紹介します。
うつ病と肥満症に共通する病態のしくみ
1. 体の中に「火事」が起きている?〜慢性炎症〜
肥満になるとお腹まわりの脂肪から“炎症を起こす物質”が出続け、体が常に軽い火事(炎症)を起こしているような状態になります。この炎症は脳にも伝わり、気分の落ち込みや意欲の低下につながることが分かってきました。
2. 脳内の「やる気スイッチ」が不調に
脳の中ではセロトニンやドーパミンという物質が「やる気」や「喜び」に関係しています。炎症が続くとこれらがうまく働かなくなり、うつの症状が出やすくなります。また、快楽を求めて食べすぎる傾向(快楽過食)も関係します。
3. ストレスホルモンがずっと出続ける
長い間ストレスが続くと、「コルチゾール」というホルモンが過剰に分泌されます。これが脂肪の蓄積を進めると同時に、心の調子も崩す原因になります。
4. 腸と脳はつながっている!〜腸内環境の大切さ〜
腸内の細菌バランスが悪くなると、炎症が強くなったり、セロトニンの材料が作られにくくなったりします。これが、心にも体にも悪い影響を与えることが分かってきました。
GLP-1受容体作動薬とは?
もともとは糖尿病の治療薬として使われてきましたが、最近では「体重を減らす」「気分を改善する」効果も注目されています。
GLP-1作動薬の主な働き
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脳に働きかけて食欲を抑える
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胃の動きをゆっくりにして満腹感を持続させる
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炎症を抑えることで気分の落ち込みを改善する可能性
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報酬系という脳の“快楽スイッチ”を整え、過食傾向を緩和
話題の「GIP/GLP-1受容体作動薬」とは?
最近はGLP-1だけでなく、GIP(胃抑制ポリペプチド)というホルモンにも作用する「2つの受容体に同時に働く薬」が登場しています。代表的なものにチルゼパチド(商品名:マンジャロ)があります。
GIP/GLP-1薬のメリット(一般向けに)
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GLP-1単独よりも体重が大きく減る可能性
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より強い食欲抑制+脂肪代謝の促進
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糖尿病改善だけでなく、肥満症の新たな治療薬として期待
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うつ症状への影響は現在研究が進行中ですが、GLP-1と同様の神経効果も期待されています
まとめ:心と体を同時にケアする時代へ
うつ病と肥満症は、体の炎症やホルモンの乱れ、脳の働きの変化など、共通する原因から発生します。GLP-1やGIP/GLP-1受容体作動薬は、それらに一つの薬で多角的にアプローチできる可能性がある画期的な治療法です。
心の不調と体重の悩み、両方を抱えている方にとって、新たな選択肢となるかもしれません。
「こころ」と「からだ」を一緒に整える、そんな時代が近づいています。
注意)本記事は、うつ病と肥満症の関係や最新治療薬に関する一般的な医学情報をわかりやすく解説したものであり、診断や治療を目的としたものではありません。