2025-06-27 19:01:00

「夏はスイカが一番!」──娘とスイカと、医師としての目線

「夏はスイカが一番!」──娘とスイカと、医師としての目線

暑さが増してくると、ふと思い出す光景がある。
今では腎臓内科医として働く長女が、まだ小学生だったころのこと。
プール帰りに、大きなスイカを頬ばりながら、満面の笑みでこう言っていた。

「夏はスイカが一番!」

その言葉が、あまりにストレートで、そして正直だったから、いまでも記憶に強く残っている。

あのころはただ「甘くて冷たくて美味しい」からスイカを食べていた。けれど今では、スイカの持つ栄養学的な価値を、医学の視点から見つめ直すことができる。

スイカの約92%は水分。汗で失われた水分やミネラルを補ってくれる。
加えて、L-シトルリンというアミノ酸は血流を改善し、筋肉疲労の軽減にも効果がある。
そして、リコピンという赤い色素は、老化や生活習慣病から体を守ってくれる強力な抗酸化物質だ。

──でも、そう言い切れない現実もある。

今、腎臓内科医になった長女は、毎日のように「水分制限」や「高カリウム血症」に悩む患者と向き合っている。
スイカは、腎臓病の方にとっては、時に「控えるべき果物」になってしまう。

「これ、食べても大丈夫ですか?」
「スイカ、一口だけでも……」
そんな患者さんの声に、娘はどう答えているだろう。

スイカにはカリウムが多く含まれていて、腎臓が弱っている人にとっては命にかかわることもある。
また、豊富な水分も、体にとって「余分な水」になってしまうことがある。

子どものころに無邪気に「一番!」と言っていた果物が、
医師となった今、患者の命を守るために「注意してください」と言わなければならない対象になる。
そこには、ちょっとしたペーソス(哀愁)がある。

それでも私は、スイカが嫌いになれない。
記憶の中の娘の笑顔と、冷えた果肉のやさしい甘さ。
そして、暑さの中で心と体を癒やしてくれる自然の恵み。

「制限しなければならない人もいるけれど、体が元気なうちは、しっかり味わっておきなさい」
きっと娘も、そんなふうに患者さんにそっと声をかけているのではないかと思う。

スイカは、ただの夏の果物ではない。
それぞれの健康状態、それぞれの立場によって、意味が変わってくる。
だからこそ、余計に愛おしいのかもしれない。