カロリー制限と私
約40年前、私はロイ・ウォルフォード博士について知りました。彼の著書「Maximam Life Span」を通じて、カロリー制限(CR: Calorie Restriction)や抗加齢医学に関心を持つようになりました。
ロイ・ウォルフォード博士は、カロリー制限によって寿命を延ばし、老化を遅らせることができると提唱しました。彼は、週の5日間は通常通り食べ、2日間は絶食するという食事療法を実践していました。しかし、残念ながら彼はALS(筋萎縮性側索硬化症)で亡くなってしまいました。
ウォルフォード博士の理論によれば、カロリー制限は免疫系の老化を遅らせ、健康寿命を延ばすことができます。免疫の老化、または免疫老化(immunosenescence)は、年齢とともに免疫系の機能が低下する現象を指します。これにより、感染症への感受性が増加し、ワクチンの効果が低下し、がんや自己免疫疾患のリスクが増えるなどの健康問題が生じます。
ウォルフォード博士は、カロリー制限が免疫系に及ぼす主な効果として次の3点を挙げています:
1. **T細胞の機能改善**:カロリー制限は、年齢とともに機能が低下するT細胞の働きを改善する可能性があります。T細胞は感染症やがん細胞と戦う免疫系の重要な部分です。
2. **炎症反応の低下**:高齢者はしばしば慢性的な低度の炎症状態(炎症老化)にあります。カロリー制限は、この炎症反応を低下させるとされています。
3. **免疫系の再構築**:カロリー制限は、免疫系の細胞の新陳代謝を促進し、老化による細胞損傷を減少させると考えられています。
ウォルフォード博士の理論には他にも多くの重要な概念が含まれています。例えば、1969年に発表された「免疫学的老化理論」では、免疫系の機能低下が老化と関連する多くの病気に寄与することを提唱しました。さらに、彼は遺伝子が寿命に与える影響についても研究し、その成果を数多くの科学論文として発表しました [oai_citation:1,Roy Walford and the immunologic theory of aging | Immunity & Ageing | Full Text](https://immunityageing.biomedcentral.com/articles/10.1186/1742-4933-2-7) [oai_citation:2,Roy Walford - Wikipedia](https://en.wikipedia.org/wiki/Roy_Walford)。
ウォルフォード博士はまた、1991年から1993年にかけてバイオスフィア2プロジェクトに参加し、閉鎖環境内でカロリー制限の実践を行いました。この経験は彼の理論を実生活に適用する重要な機会となりました [oai_citation:3,Roy Walford - Wikipedia](https://en.wikipedia.org/wiki/Roy_Walford)。
カロリー以外の栄養素を不足させずにこの食事療法を長期間続けることは大変です。そのため、カロリー制限を擬似的に作り出す方法がいろいろと研究されてきました。例えば、SGLT2阻害剤は、擬似的カロリー制限や老化細胞除去に役立つかもしれないと考えられています。順天堂大学の研究によると、SGLT2阻害剤が老化細胞除去に有効であることが示されています [oai_citation:4,臨床応用可能な老化細胞除去薬の同定に成功―アルツハイマー病などの加齢関連疾患への治療応用の可能性― | 国立研究開発法人日本医療研究開発機構](https://www.amed.go.jp/news/release_20240531.html)。数年前から、その作用機序から考え、少なくとも老化した脂肪細胞除去作用はあるだろうと私も考えていました。
さらに、東京大学の中西真教授が率いる研究チームは、GLS1阻害剤を用いて老化細胞を選択的に除去し、老化関連の組織機能障害を改善することを発見しました。この研究は、GLS1阻害剤が老化細胞除去に有効であり、老化関連疾患の新たな治療法としての可能性を示しています [oai_citation:5,GLS1 inhibitor that selectively removes senescent cells ameliorated age-associated tissue dysfunction and diseases such as arteriosclerosis|THE INSTITUTE OF MEDICAL SCIENCE, THE UNIVERSITY OF TOKYO](https://www.ims.u-tokyo.ac.jp/imsut/en/about/press/page_00031.html) [oai_citation:6,
GLS1 inhibitor selectively eliminates senescent cells, ameliorates age-associated disorders
](https://www.natap.org/2021/HIV/020821_01.htm) [oai_citation:7,Inhibiting the GLS1 enzyme could improve age-associated disorders](https://www.drugtargetreview.com/news/82674/inhibiting-the-gls1-enzyme-could-improve-numerous-age-associated-disorders-finds-study/)。
私自身は、擬似的カロリー制限として一時期ケトン食を試しましたが、現在はアンドルー・ワイル博士が提唱する抗炎症と緩やかな糖質制限を行っています。この方法は、通常のカロリー制限のような空腹感を我慢することが辛くないため、実践し易い食事法の一つです。私の食事には、様々な色の野菜を含む植物性ケトン食の側面があります。エキストラバージンオリーブオイル、アボカド、ナッツ類、青魚など、良質な油が多く含まれています。
通常のカロリー制限は空腹感がつらいことが多いですが、糖尿病などの病気のコントロールには有効かもしれません。
ウォルフォード博士の研究は、カロリー制限が免疫系に及ぼす効果についての理解を深める上で重要な貢献をしました。しかし、人間におけるカロリー制限の効果や安全性についてはさらなる研究が必要です。カロリー制限や糖質制限を行う際には、必要な栄養素を適切に摂取することが重要であり、医師や栄養専門家のアドバイスを受けることが推奨されます。
遅ればせながら受付・事務員スタッフへの感謝
コロナ禍の中、当まゆき会菊池クリニックの受付・事務スタッフや事務長の皆さんが果たしてくれた役割に対して、心からの感謝を伝えたいと思います。
突然のパンデミックに見舞われた我々のクリニックには、電話予約無しで院内に入室しようとした患者さんの中に、実はコロナ陽性者が含まれていたことが何度かありました。皆さんの尽力により、院内の他の患者さんや医療スタッフを感染から守ることができました。この困難な状況下で、皆さんは院内感染を未然に防ぎ、何度も心が折れそうになる中でも日常診療を守り抜いてくれました。
発熱外来では、延べ1000名以上のコロナ陽性者を診察し、その対応に追われる日々が続きましたが、コロナワクチン接種の予約や日程の調整を進めながら、発熱患者への電話対応、会計業務をこなす姿にはいつも驚かされます。また、非感染性疾患の生活習慣病患者さんへの受付会計業務も同時にこなすその能力とチームワークの良さは、我々のクリニックの大きな支えとなっています。
心無い非難や罵声を浴びることも少なくなかったでしょう。しかし、そのような状況でもひたむきに業務を遂行し、患者さんの安全と健康を第一に考えてくれたことに、深く感謝しています。皆さんの努力と献身が、クリニックの安心・安全を支え、多くの人々の命を守りました。
また、事務員の立場や状況を良く理解し、予約時間を過ぎても長時間辛抱強く待ってくださり、感謝と励ましと慰めの言葉をかけてくださった多くの患者さんにも心から感謝いたします。生真面目で繊細な彼女たちが何とか頑張って来られたのは、プロ意識だけでなく、患者さんからの温かいお心遣いがあったからこそだと思います。
これからも、我々は一致団結してこの難局を乗り越えていきましょう。皆さんの頑張りと忍耐と親切心、そして揺るぎない献身に、改めて感謝の意を表します。本当にありがとうございます。
心療内科で扱う心身症につて
心身症(しんしんしょう)は、
心身症には、以下のような代表的な疾患があります:
1. 過敏性腸症候群(IBS):ストレスが原因でお腹の痛みや下痢、
2. 心因性疼痛:医学的な原因が見つからないにもかかわらず、
3. 緊張型頭痛:ストレスや精神的な緊張が原因で起こる頭痛で、
4. 心因性嘔吐:精神的な要因により、
5. 不安障害による身体症状:不安が強いと、胸の痛みや息苦しさ、
心身症の治療には、症状を和らげるための薬物療法のほかに、
心身症は、「心の問題が体に影響を及ぼす」
慢性疲労症状を主訴に来院した人
疲労倦怠感を主訴に来院した男性の患者さんがいる。
男性更年期を心配されており、血液検査をしたところ、
遊離テストステロンが0.2pg/mLと明らかに低値であった。
しかし同時にコルチゾールも0.9μgと低値であった。
ACTHとTSHは基準範囲にあり、LHは0.3MIUとやや低値であった。 この方は本年4月に新型コロナに罹患され、その後体調不良が続いていた。
突然の発汗、やっと仕事に行くが、帰宅後はずっと横になっている状態だった。 幸い、コートリルとテストステロン補充で回復して、もとに戻った状態になった。
コロナ後遺症と断定はできないが、罹患後症状ではある。
夜間休日診療所の帰りの出来事
5月3日は小山地区医師会の当番で、午後4時から午後9時まで夜間休日診療を行った。
GW期間中であったため、私を含めて3人の医師が執務にあたった。
コロナ前の時代には、この時期かなり大勢の急患がいたために、年末年始と併せて特別な体制がとられているのだ。
しかしコロナ禍に入ってからは、発熱患者に対しては外で診察をし、しかも検査ができない状態なので、
かなり閑散とした日が続いている。
それでも私1人でも、1歳児の熱発、コロナ濃厚接触後の発熱、PCR検査陰性後の発熱持続患者2名など、数名の患者さんを診た。
1人は低酸素血症状態だったので、すぐ近くの新小山市民病院の内科の先生に精査をお願いした。
レントゲンも何も無い診療所の当番としては、いざという時に直ぐ診て貰える病院が控えているので本当にありがたい。
帰宅途中の車中に妻から電話があり、近所の人が奥さんの様子がおかしいと尋ねて来たとのことであった。
ご主人の話では、呼びかけると返事はするが、目を開けないという。
小山からでは、まだだいぶかかるし、超高齢でもあり糖尿病もあることだから、念の為に救急車を呼んだ方が方が良いだろうと話した。
自宅に近づくころ、再び妻から電話があり、「家に帰ってもう一度呼びかけたら、目を開けて普段の状態に戻った」と連絡があったという。
ご主人はひどく恐縮していたが、妻は昨年9月に亡くなった自分の母親の事を例に、「高齢者は時々、意識状態が変動したり、寝ぼけたりすることがあるから」と話したようだ。
一応その家を尋ねてみたら、奥さんがにこにこした顔で出てきて、「よーく寝ていて、夢を見ていたんだ。寝ぼけたのかな」と笑う。
とりあえず笑い話で済んでよかったが、果たしてあのご主人は体を揺り動かしたりはしなかったのだろうか?
連休中何も無いことを祈る。