GLP-1/GIP時代の「筋肉を守る」ダイエット
GLP-1/GIP時代の「筋肉を守る」ダイエット
体重だけでなく、「何を減らし、何を残すか」が大切です
肥満症や糖尿病の治療は、GLP-1受容体作動薬やGLP-1/GIP受容体作動薬の登場によって大きく変わりました。
なかでもチルゼパチドは、食欲を抑え、血糖を改善するとともに、大幅な体重減少が期待できる薬です。
しかし、体重が大きく減る時代になったからこそ、新しい問題も見えてきました。
それは、
「減った体重の中身は何か?」
という問題です。
肥満治療の本当の目的は、ただ体重計の数字を小さくすることではありません。
余分な脂肪を減らしながら、筋肉・筋力・動ける身体をできるだけ守る。
これが、これからの肥満治療で重要になる考え方です。
チルゼパチドで筋肉も減る?
チルゼパチドを用いた大規模臨床試験SURMOUNT-1の体組成解析では、減少した体重の内訳は、おおむね
約75%が脂肪量
約25%が除脂肪量(lean mass)
でした。
つまり、減った体重の大部分は脂肪です。
一方で、脂肪以外の組織もある程度減少することには注意が必要です。
ただし、ここでいう「除脂肪量」は、そのまま「筋肉量」を意味するわけではありません。除脂肪量には骨格筋だけでなく、体液や臓器なども含まれています。
したがって、
「チルゼパチドで減った体重の25%が筋肉だった」
と解釈するのは正確ではありません。
「筋肉が減る」だけでは説明できない
さらに興味深い研究があります。
2型糖尿病患者をMRIで詳しく調べたSURPASS-3 MRIの解析では、チルゼパチドによる体重減少に伴って筋肉の容積も減少しました。
しかし、その減少は、おおむね大幅な減量に伴って予測される範囲でした。
さらに、筋肉の中に入り込んでいた脂肪、いわゆる**筋内脂肪浸潤(myosteatosis)**は改善しました。
つまり、
筋肉の量はある程度減少する一方、筋肉内の余分な脂肪も減る
という変化が起きている可能性があります。
ただし、筋内脂肪が減ったからといって、筋力や歩行能力が必ず改善することまで証明されたわけではありません。
そのため、体重だけでなく、実際に「動ける身体」が維持できているかを見る必要があります。
問題は「薬が筋肉を溶かすこと」ではない
現在のところ、チルゼパチドが骨格筋を選択的に破壊する「筋毒性」を持つという確立した証拠はありません。
むしろ注意したいのは、薬によって食欲が大きく低下した場合です。
食欲が落ちる
↓
食事量が減る
↓
蛋白質も不足する
↓
運動量も減る
↓
筋肉への栄養と刺激が不足する
↓
筋量・筋力・身体機能が低下する
という流れが起こる可能性があります。
つまり、
「食べなければ食べないほど、よく痩せる」
という考え方は危険です。
体重は減っても、必要な筋肉まで失ってしまえば、健康的な減量とは言えません。
特に筋肉に注意したい人
筋肉を守る対策は、特に高齢者で重要になります。
注意が必要なのは、高齢者、もともと筋肉や筋力が少ない人、フレイル傾向の人、運動習慣がない人、蛋白質摂取が少ない人、食欲が極端に低下した人、短期間に急激に体重が減っている人などです。
若い高度肥満の方が10kg減量する場合と、70~80歳代で筋肉量の少ない方が同じ10kg減量する場合では、同じ体重減少でも意味が違います。
高齢者では、
「何kg痩せたか」よりも「痩せたあとも元気に歩けるか」
の方が重要な場合があります。
筋肉を守る第1のポイント
蛋白質を確保する
GLP-1/GIP治療中は食事量が減りやすいため、「少ない食事の中で何を食べるか」が重要になります。
肉、魚、卵、大豆製品、乳製品などの蛋白質源を意識して確保します。
蛋白質の必要量は、年齢、体格、運動量、腎機能などによって異なります。一律に「○g食べればよい」と決めることはできません。
大切なのは、
必要な蛋白質と栄養を先に確保して、余分なエネルギーを減らす。
という考え方です。
食欲がないからといって、ほとんど食べずに体重だけを急速に落とす方法は勧められません。
筋肉を守る第2のポイント
「歩くだけ」ではなく筋肉を使う
筋肉を守るには、栄養だけでなく筋肉への刺激が必要です。
ウォーキングは健康にとても良い運動ですが、大幅な減量中の筋肉を守るには、筋肉に負荷をかける運動も重要です。
例えば、
-
椅子からの立ち上がり
-
スクワット
-
かかと上げ
-
ゴムバンド運動
-
筋力トレーニング
などです。
特に高齢者では、重いものを持ち上げることが目的ではありません。
立てる、歩ける、階段を上れる、転ばない。
この能力を維持することが大切です。
自宅でもできる「5回立ち上がりテスト」
下半身の筋力や身体機能を簡単に確認する方法の一つが、5回椅子立ち上がりテストです。
安定した椅子に座り、可能であれば腕を胸の前で組みます。そして、できるだけ速く「立つ・座る」を5回繰り返し、時間を測ります。
目安として、
10秒未満:良好
10~12秒:おおむね良好
12秒以上:身体機能低下に注意
15秒以上:より詳しい評価を検討
と考えます。
ただし、年齢や病気によって結果の意味は異なります。
また、1回の数字だけで判断するより、
治療前 9秒 → 3か月後 10秒 → 6か月後 13秒
のように、自分自身の変化を見ることが重要です。
体重が順調に減っていても、立ち上がる能力が明らかに低下しているなら、食事、蛋白質、運動、減量速度などを見直す必要があります。
転倒の危険がある方は、一人で行わないでください。
体重計だけで治療を評価しない
これからのGLP-1/GIP治療では、体重だけを見るのでは不十分です。
治療中には、
体重・腹囲・減量速度
+
食事量・蛋白質摂取
+
筋肉量
+
筋力
+
身体機能
を総合的に見ることが理想です。
可能であれば体組成計による測定に加えて、握力や5回立ち上がりテストなども役立ちます。
「何kg痩せたか」から「どう痩せたか」へ
GLP-1/GIP受容体作動薬によって、これまで難しかった大幅な体重減少が可能になってきました。
だからこそ、肥満治療の目標も変える必要があります。
体重を減らす
↓
脂肪を減らす
↓
脂肪を減らしながら、筋肉・筋力・身体機能を守る
という考え方です。
チルゼパチドによる治療では、減少する体重の主体は脂肪ですが、除脂肪量も一定程度減少します。
特に高齢者や筋力の低い方では、
栄養(特に蛋白質)の確保
+ 筋力運動
+ 身体機能のチェック
を治療とセットで考えることが大切です。
肥満治療の成功は、
「何kg痩せたか」だけでは決まりません。
余分な脂肪を減らし、代謝を改善し、動ける身体を残して痩せる。
これが、GLP-1/GIP時代に目指したい「質の高い減量」です。
※GLP-1/GIP受容体作動薬の適応や治療目標、栄養・運動療法は、年齢、糖尿病の有無、腎機能、筋力などによって異なります。治療中の方は、自己判断で薬の量を変更せず、主治医と相談しながら治療を進めてください。
