サリーとコウ、光の守護霊
ある日のこと、サリーという小さなチワワと、年老いた黒柴のコウは、家族と散歩に出かけていました。彼らはいつもの道を歩いているうちに、大きな森へと迷い込んでしまいました。森は昼間だというのに薄暗く、木々の間を冷たい風が吹き抜けています。まるで森全体が彼らを見ているかのような、得体の知れない気配が漂っていました。
「コウ兄ちゃん、怖いよ……何かが私たちを見ている気がする……」サリーは小さな体を震わせながら、コウのそばにぴったりと寄り添いました。
コウは優しくサリーの頭を鼻先で触れ、低い声で言いました。「大丈夫だよ、サリー。怖いと感じるのは自然なことさ。でも、恐怖を乗り越える方法を知っていれば、もっと強くなれるんだ。」
「どうやって乗り越えればいいの?」サリーは涙ぐみながら尋ねました。
コウは目を細めて、遠い昔を思い出すように言いました。「昔、僕がまだ若かった頃、この森に住む賢者のフクロウ、ウィローに教えてもらった呪文があるんだ。その呪文はね、『エクスペクト・パトローナム』という古い言葉だよ。この呪文を使うと、自分の心の中にある一番明るく幸せな記憶を呼び覚まし、それが守護霊となって恐怖を追い払ってくれるんだ。」
「守護霊……?」サリーの目が少しだけ輝きました。
「そうだよ。でも、ただ呪文を唱えるだけではダメなんだ。」コウは穏やかに言葉を続けました。「心の中にある、一番幸せだった瞬間をしっかりと思い出して、それを全身で感じることが大切なんだ。」
その時、森の奥から低いうなり声が聞こえてきました。暗闇の中から、影のような形をした怪物がゆっくりと近づいてきます。サリーは後ずさりしながら、震えました。「こ、怖いよ……コウ兄ちゃん……!」
コウは落ち着いた声で言いました。「サリー、まず深呼吸だよ。ゆっくり吸って、吐いて。恐怖を感じてもいい。でも、その恐怖に飲み込まれないことが大事なんだ。そして、心の中にある一番幸せだった記憶を思い出してみよう。」
サリーは目を閉じ、震える体を必死に落ち着けようとしました。すると、頭の中に小さな頃のことが浮かんできました。家に来たばかりの頃、夜が怖くて泣いていた時、コウがそっと隣に寄り添い、優しく体を温めてくれた日のことを思い出したのです。その時の安心感と幸せが、サリーの胸の中に広がっていきました。
「そう、それでいいんだ、サリー。」コウが力強く言いました。「その記憶を胸いっぱいに感じて、それから『エクスペクト・パトローナム』と唱えるんだ!」
サリーは勇気を振り絞り、小さな声で呟きました。「エクスペクト・パトローナム!」
すると、サリーの小さな体から眩しい光が溢れ出しました。その光は、優しく温かな形をしており、やがて大きな蝶のような守護霊となって暗闇を照らしました。その光は恐怖を包み込むように広がり、影の怪物たちは光に当たると悲鳴をあげ、霧のように消えていきました。
「できたよ……コウ兄ちゃん!」サリーは驚きと喜びで声を上げました。
コウは満足そうに微笑みながら言いました。「よくやったね、サリー。君の中には最初からその力があったんだ。ただ、それを信じる勇気が必要だっただけさ。」
その日以来、サリーは恐怖を感じるたびに、自分の心の中にある幸せな記憶を思い出し、光を生み出す方法を覚えました。どんな暗闇の中でも、彼女の守護霊が彼女を守ってくれるのです。そしてサリーは、いつかコウのように他の犬たちを励ます存在になりたいと心に誓いました。
