2025-02-06 14:22:00

新型コロナウイルスとの5年間と、私が学んだこと

新型コロナウイルスとの5年間と、私が学んだこと

 

新型コロナウイルスとの闘いが始まってから5年が経過しました。この間、感染症対策の考え方は変化し、情報も錯綜しました。

 

当クリニックでは、患者さんの健康を守るために、常に最新の知見を学び、実践することを大切にしてきました。その過程で、特に大きな示唆を与えてくださった3人の専門家がいます。

 

ウイルス学者の宮沢孝幸先生、画像診断医の屋代香絵先生、そして大阪大学を退官される予定のウイルス免疫学者の中山英美先生 です。

 

とりわけ中山英美先生は、免疫学・ウイルス学の分野で、科学的根拠に基づく冷静な判断を貫かれた方 です。膨大な研究データをもとに、感染症対策や免疫の働きについて深い洞察を示され、私たちに大きな学びを与えてくださいました。

 

宮沢孝幸先生:「感染しているかもしれない」という視点からの変遷

 

パンデミック初期、宮沢先生は 「自分がすでに感染しているかもしれないと考え、他者にうつさない行動をとるべき」 と提唱されました。

 

これは、無症状感染者がウイルスを広げる可能性を考えたうえで、マスク着用・手洗い・換気 を徹底し、感染拡大を防ぐことの重要性を示したものです。

 

しかし、その後の発言は変化し、「オミクロンは天然のワクチン」「新型コロナウイルスは人工ウイルス」 など独自の見解を示すようになりました。

 

最終的には 「マスクを外して集団免疫をつけるべき」 という方向に変わり、当初の考えとは異なる発言が目立つようになりました。

 

屋代香絵先生:「マリモサイン」と空気感染・マスクの重要性

 

屋代先生は、COVID-19の肺病変を画像診断の視点から研究し、「マリモサイン」 という概念を提唱されました。

 

これは、ウイルスがエアロゾル(空気感染)を介して広がる ことを示唆するもので、換気の重要性 を改めて強調するものでした。

 

また、屋代先生は 「適切なマスク着用が感染対策に有効である」 と繰り返し発信され、以下の点を指摘されています。

適切にフィットした不織布マスクは、ウイルスの吸入・排出を防ぐのに有効

換気を徹底することで、室内感染のリスクを低減できる

マスク自由化後に感染が再拡大したことは、マスクの効果を過小評価した結果である可能性がある

 

さらに、N95やKN95マスクの使用も推奨 されており、これらの高性能マスクがエアロゾル感染をより効果的に防ぐことが示されています。

 

中山英美先生:「N抗原と抗N抗体の影響」—免疫への長期的影響

 

1. COVID-19の病態解明における貢献

 

中山先生の研究では、COVID-19が免疫系に与える影響 について、特に N抗原(ヌクレオカプシド)と抗N抗体の関係 に着目されています。

N抗原が炎症を引き起こし、IL-6の産生を促進することでサイトカインストームを誘発する

抗N抗体が、感染の拡大や炎症の増強に関与する可能性

小児の免疫系(特にpDC)の機能低下との関連が示唆される

ロングCOVIDの原因の一つとして、N抗原の持続的な存在が影響する可能性

 

また、感染対策として、「たとえ感染するにしても、体内に取り入れるウイルス量は少ない方がよい」「やがて治るにしても、なるべく早く体内のウイルス量が増加しないで治る方がよい」 という視点を示されました。

 

これは、感染時のウイルス量が少ないほど免疫系への負担が軽減され、重症化のリスクも抑えられる という科学的根拠に基づいた考え方です。

 

さらに、S/N比(抗スパイク抗体と抗ヌクレオカプシド抗体の比率)を上げることが、感染時のリスク低減につながる ことも学びました。

抗スパイク抗体を十分に持つこと で感染防御を強化する

抗N抗体の過剰な産生を防ぐこと で炎症反応の悪化を抑える

 

加えて、再感染は重症化やロングCOVIDのリスク因子となる ことも中山先生の研究で示されています。

 

2. 文部科学省の脱マスク推進通達の再考を求めた

 

中山先生は、文部科学省の一律の脱マスク推進通達の再考 を求める発言をされました。

一律の脱マスク推奨ではなく、感染リスクに応じた柔軟な対応が必要

高リスクの児童や教職員への配慮が求められる

換気の徹底や感染拡大時のマスク着用を含めた総合的な対策が求められる

 

これは、「マスクをする・しない」の単純な議論ではなく、感染リスクや免疫学的影響を考慮し、状況に応じた適切な対策を行うべきである という科学的な視点に基づく提言でした。

 

結論:科学に基づいた冷静な判断の重要性

 

新型コロナウイルスとの5年間を振り返ると、感染症対策は「科学的根拠に基づいた冷静な判断」が何よりも重要 であることを痛感します。

 

当クリニックでは、今後も最新のエビデンスを学びながら、患者さんの健康を守るための最善の対策 を講じてまいります。

 

COVID-19の免疫への長期的影響、ウイルス量の管理、S/N比の重要性、再感染リスクなど、多くのことを学ぶことができたのは、中山先生の研究と発信のおかげです。心からの敬意と感謝を捧げます。

 

感染症対策は、流行状況や新たなエビデンスに応じて、常にアップデートされるべきもの です。

 

当クリニックでは、これからも患者さんの健康を守るため、最新の知見に基づいた医療を提供していきます。