🌪️ 第3回 ストレスは、脳に何を起こすのか ― なぜ「休むこと」が治療になるのか ―
🌪️ 第3回
ストレスは、脳に何を起こすのか
― なぜ「休むこと」が治療になるのか ―
「最近、休んでも疲れが取れない」
「寝ているはずなのに、ずっと緊張している気がする」
うつ病の入り口に立つ方が、よくこう話されます。
これは気のせいでも、甘えでもありません。
脳が“非常事態モード”から戻れなくなっているサインです。
🔍【精神科医の視点】
この状態は、神経生理学的に説明のつく“脳の反応”です。本人の性格や努力の問題ではありません。
🛡️ ストレスは、本来「守る」ための反応
ストレスという言葉にはネガティブな印象がありますが、
本来は私たちの命を守るための生理的な反応です。
危険やプレッシャーを感じると、脳は防御モードに入り、スイッチを入れます。
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集中力が高まる
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心拍や血圧が上がる
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エネルギーが筋肉へ優先的に送られる
このとき働いているのが、
HPA軸(視床下部‐下垂体‐副腎系)という、
脳とホルモンによるストレス調整システムです。
🔍【心療内科の視点】
HPA軸の活性化は、動悸・胃痛・睡眠障害などの身体症状にもつながるため、「気のせい」とは切り捨てられません。
⚠ 問題は「スイッチが切れなくなること」
第2回でも触れたように、脳は「ちょうどいい緊張」のときに最もよく働きます。
(ヤーキーズ・ドットソンの法則)
しかし慢性的なストレス環境では、
このスイッチが入りっぱなしになります。
たとえば:
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終わらない仕事
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責任の重圧
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常に気を張る人間関係
脳は「まだ危険が続いている」と判断し、ストレスモードを解除できなくなるのです。
🌊 コルチゾールと「海馬(かいば)」の話
このとき分泌される代表的なホルモンが、コルチゾールです。
短期的には集中力や代謝を高めてくれますが、
慢性的に出続けると、脳への悪影響が生じます。
とくに影響を受けやすいのが、海馬(かいば)です。
🧠 海馬は「感情と記憶のブレーキ役」
海馬は、
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記憶の整理
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情報の取捨選択
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感情の抑制(扁桃体と連携)
を担っており、“脳のブレーキ”のような働きをしています。
しかし、コルチゾールが過剰に分泌され続けると、
この海馬の働きが弱まり、
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感情が不安定になる
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ネガティブな情報に敏感になる
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ストレス反応が止まらなくなる
といった悪循環が始まります。
🔍【精神科医の視点】
海馬はストレスに弱い部位ですが、回復力も高く、環境次第で再生可能です。
🔄 「休んでも休めない」は脳のSOS
このような状態になると、以下のような感覚が続きます:
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休んでも気が休まらない
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眠れているはずなのに、疲れが取れない
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小さなことにすぐ不安になる
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物事を柔軟に考えられない
これは、脳のブレーキがきかなくなっている状態です。
自分の意志や努力だけでどうにかなるものではありません。
🌱 大切なこと:「壊れた」のではない
「自分の脳はもう戻らないのでは」
「このままずっとこの状態なのかも」
そう感じてしまうこともありますが、それは誤解です。
脳の神経回路は、回復力を備えています。
海馬もまた、休息・安心・環境の変化によって、
つながりを回復し、機能を取り戻すことが可能です。
🛌 なぜ「休むこと」が治療になるのか
ここまで読んでくださった方には、もうご理解いただけると思います。
休むことは、脳に「もう大丈夫」と伝える行為です。
医学的に見ても、休息・環境調整は以下のような意味を持ちます:
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コルチゾールの過剰分泌を抑える
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海馬の機能を回復させる
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HPA軸の反応性を正常に戻す
これらは、薬と並ぶ「神経学的な治療」なのです。
🔍【産業医の視点】
働き続けながらの回復は困難なこともあります。
「休む選択」は回復の起点であり、職場や周囲の理解が不可欠です。
🛡️ 免責事項とご相談のすすめ
本記事は、うつ病や脳のストレス反応についての理解を深めることを目的とした一般情報です。
診断・治療・処方の代替となるものではありません。
以下のような状態が続いている場合は、
精神科・心療内科などの専門医へのご相談を強くおすすめします:
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疲労感が取れない、休んでも落ち着かない
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不安・焦りが続く
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睡眠リズムが乱れている
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考えがまとまらず、判断がつきにくい
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気持ちが沈んだままで、日常生活に支障が出ている
早めの受診が、回復を早める第一歩です。
