血管と脳の静かなリスクサイン——「ホモシステイン」をご存じですか?
血管と脳の静かなリスクサイン——「ホモシステイン」をご存じですか?
◆ 私とホモシステインの出会い
1983年、医師として臨床を始めて間もない頃、私は一冊の本に強い印象を受けました。
それが、エドワード・グルバーグ著『コレステロールはもう怖くない』です。
当時、動脈硬化の原因といえば「高コレステロール」が常識とされていましたが、その本では、あまり知られていなかった“ホモシステイン”というアミノ酸が、心疾患の独立したリスク因子として紹介されていたのです。
「病気はコレステロールだけで説明できない」というその視点は、まさに現在の“多因子疾患”という考え方の先取りでした。そして今、ホモシステインは心血管疾患、認知症、さらには骨や神経に関する疾患とも深く関わっていることがわかってきています。
◆ ホモシステインとは?
ホモシステインは、食事中のたんぱく質(メチオニン)の代謝過程で一時的に体内に生成されるアミノ酸です。通常は、葉酸・ビタミンB12・ビタミンB6の働きによって別の物質に変換され、速やかに代謝されます。
しかし、これらの栄養素が不足したり、加齢や体質によって代謝がうまくいかなくなると、血液中にホモシステインが蓄積しやすくなります。これが「高ホモシステイン血症」と呼ばれる状態です。
◆ なぜ問題なのか?——ホモシステインと疾患リスク
🫀 心血管疾患との関係
-
血管内皮を傷つけ、動脈硬化や血栓形成を促進する
-
心筋梗塞や脳卒中のリスクが高まることが多数の研究で確認されています
🧠 認知症との関係
-
高ホモシステインは脳の血流障害や神経細胞の損傷に関与
-
高齢者では脳萎縮や白質病変と関連し、アルツハイマー病や血管性認知症のリスク上昇と関連
その他の関与が報告されている疾患
-
骨粗鬆症(骨折リスク増加)
-
抑うつ・情動障害
-
妊娠合併症(妊娠高血圧症候群など)
-
慢性腎疾患、糖尿病に伴う血管合併症
◆ 検査と予防
🔬 誰におすすめか?
-
心血管疾患や認知症の家族歴がある方
-
野菜や魚・肉の摂取が少ない方(赤身の肉や加工肉の過剰もリスク)
-
高齢者、栄養吸収力が低下している方
-
慢性疾患(高血圧、糖尿病、腎疾患など)をお持ちの方
🥗 日常の食事でできること
-
葉酸:ほうれん草、ブロッコリー、枝豆、レバーなど
-
ビタミンB12:魚、卵、肉、乳製品
-
ビタミンB6:バナナ、さつまいも、豆類、鮭
🧪 医療機関での検査
ホモシステイン値は血液検査で簡単に測定可能です。症状や既往に応じて、保険診療で対応できる場合もありますので、医師にご相談ください。
◆ おわりに
ホモシステインは、まだ一般的にはあまり知られていない存在ですが、血管や脳の健康を語るうえで無視できない指標になりつつあります。
早い段階でその異常に気づき、適切な生活習慣を心がけることは、「未病」からの予防医療にもつながります。
みなさんの健康づくりに、この知識が少しでもお役に立てば幸いです。