高齢者の健康に欠かせない「必須微量ミネラル」とは?
高齢者の健康に欠かせない「必須微量ミネラル」とは?
― 見過ごされがちな“わずかな欠乏”が、体調不良の原因かもしれません ―
私は大学を卒業して間もないころ、ミネラル栄養学に深い関心を抱いていました。
当時、プラズマ発光分析(ICP)、原子吸光光度計(AAS)、電子スピン共鳴装置(ESR)といった分析機器を用い、毛髪中のミネラル濃度や玄米に含まれるマンガン量などを測定していた経験があります。
ミネラルは微量でも人体に大きな影響を与えます。
たった数ppm(100万分の1)の変動が、味覚の変化や免疫機能の低下、集中力や気分の乱れにつながることもあります。
当時はまだ一部の研究者しか注目していなかった微量ミネラルの重要性が、いまや臨床の現場で再評価されています。
とくに高齢者においては、食事量の減少、消化吸収力の低下、薬剤の影響などにより、微量ミネラルの欠乏が生じやすくなります。
しかし、その症状は「年のせい」と片付けられ、見逃されがちです。
微量ミネラルとは?
微量ミネラル(トレースミネラル)は、体内にごく微量しか存在しないものの、生命活動に不可欠な無機元素です。
具体的には、1日の必要量が100mg未満のものを指し、多くが金属元素に分類されます。
酵素の働きを助け、神経伝達、代謝、免疫、ホルモンバランスなどに関与します。
高齢者にとって重要な9つの微量ミネラルとその影響
ミネラル | 主な働き | 欠乏時の症状 | 多く含む食品 |
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亜鉛(Zn) | 味覚や免疫の調整、創傷治癒 | 味覚障害、風邪をひきやすい、傷が治らない | 牡蠣、牛肉、ナッツ、全粒穀物 |
鉄(Fe) | 赤血球の材料、酸素運搬 | 貧血、疲労感、動悸 | レバー、赤身肉、豆類、ひじき |
銅(Cu) | 酵素補因子、鉄の代謝、神経伝達 | 貧血、骨粗しょう症、神経障害 | レバー、カシューナッツ、雑穀 |
セレン(Se) | 抗酸化作用、甲状腺機能、免疫 | 筋肉の弱化、感染症にかかりやすい | 魚介類、卵、ブラジルナッツ |
ヨウ素(I) | 甲状腺ホルモンの材料 | 代謝低下、むくみ、甲状腺腫 | 昆布、わかめ、ヨウ素添加塩 |
クロム(Cr) | 血糖値の調整、インスリン感受性 | 耐糖能低下、高血糖 | 全粒穀物、ブロッコリー、ナッツ |
モリブデン(Mo) | 酵素補因子(尿酸・硫黄代謝) | 神経障害、尿酸代謝異常(稀) | 豆類、全粒穀物、レバー |
マンガン(Mn) | 骨形成、抗酸化酵素の補因子 | 骨の脆弱化、運動障害 | 玄米、ナッツ、ほうれん草 |
コバルト(Co) | ビタミンB12の構成成分 | 貧血、神経障害(B12欠乏) | 肉類、魚、卵(B12として) |
なぜ高齢者は不足しやすいのか?
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食事量の減少:加齢により食欲が低下し、栄養の偏りが生じがち。
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消化吸収力の低下:胃酸分泌や腸の吸収機能が低下。
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多剤併用(ポリファーマシー):利尿薬や制酸薬がミネラル排泄を促進。
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独居や嚥下困難など社会的・身体的要因。
最近の話題・研究トピック
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亜鉛とコロナ後遺症(味覚・嗅覚障害)との関連。
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セレンとウイルス感染予防の関係性。
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クロムの必須性に再検討の動き(欧州食品安全機関では非必須と判断)。
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モリブデンの解毒酵素群(mARC酵素など)への注目。
まとめ
「歳のせいかな」と思っていた不調が、実は微量ミネラルの不足に原因があるかもしれません。
特に高齢者では、食生活の工夫や定期的な栄養評価がとても重要になります。
日々の食事に少しだけ意識を向けることで、体の内側からの健康づくりが可能です。
必要に応じて、医師や管理栄養士と相談しながら、ミネラルの適正な補給を心がけましょう。