ロングCOVIDの原因は「抗体の暴走」?
🧬 ロングCOVIDの原因は「抗体の暴走」?
─ 抗N抗体とウイルスの断片が引き起こす“体の内なる火種”とは ─
🔍 抗体は「体を守るもの」──でも、例外がある
私たちの体は、ウイルスなどの異物が入ってくると、それをやっつけるために「抗体」をつくります。
ワクチンもこの抗体をつくらせて、病気を防いでくれます。
でも──すべての抗体が、いつも「味方」でいてくれるとは限らない。
そのことを示しているのが、ロングCOVIDという、感染後に症状が長引く病態です。
🧬 問題は「N抗体」──感染して初めて作られる抗体
新型コロナウイルスの構造には2つの重要なたんぱく質があります:
名前 | 場所 | 体がつくる抗体 |
---|---|---|
スパイク(S) | ウイルスの外側 | 抗S抗体(ワクチンでも生成) |
ヌクレオカプシド(N) | ウイルスの内部 | 抗N抗体(感染しないとできない) |
このN抗体が、ロングCOVIDの患者で「高く、長く残っている」という研究結果が出ています。
🧪 データで見る:ロングCOVID患者の「異常な抗体持続」
英国のVirus Watchという大規模研究での結果(Beale et al. 2025)は、以下のようなものでした:
📊 図1:ロングCOVID(PCC)の人の方が、感染から270日経っても抗N抗体が陽性である割合が高い
📈 図2:抗N抗体の量が、PCC群の方が高く、しかも下がりにくい
👉 一般的に抗体は徐々に減っていくはずなのに、PCC群ではずっと高いままなのです。
🧠 中山英美先生(阪大)の仮説:「残った抗原×抗体の暴走」
この現象に対して、大阪大学 微生物病研究所の中山英美先生は以下のような仮説を立てています:
感染後、体のどこか(腸管、リンパ節など)にNたんぱく質の断片(抗原)が残る
それに対して抗N抗体が過剰に反応し続ける
Fc受容体という“引き金”を通して免疫細胞(マクロファージなど)が刺激され続ける
→ 炎症性サイトカイン(IL-6, IL-8など)が出続ける
この「慢性的な免疫の火種」が、ロングCOVIDの症状──
脳の霧(ブレインフォグ)や倦怠感、動悸、関節痛などを引き起こしている可能性があるのです。
📷 図でみる抗N抗体の特徴
👇 以下の図は、感染後の抗N抗体の動きを示したものです。
赤=急性期のみで回復した人、青=PCC(ロングCOVID)になった人です。
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左上(図1)では、日が経ってもPCC群は高い抗体陽性率を保っています。
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右上(図2)では、抗N抗体の量がPCC群で高く、長期間持続しているのが分かります。
💉 ワクチンによる「抗S抗体」には問題なし
同じ研究では、ワクチンで作られる抗体(抗S抗体)にはPCCとの関係は見られなかったと報告されています。
つまり──
✅ 抗体が悪いわけではない
❌ ワクチンが悪いわけでもない
💥 「感染後にできる抗N抗体」が、体に残ったウイルスの断片(N抗原)に過剰反応している
ことが、ロングCOVIDの一因かもしれないということです。
📌 まとめ:抗N抗体は“感染の証拠”から“病気の火種”へ
抗体は本来、体を守ってくれる存在。
しかし場合によっては、体内に残るウイルスの破片に反応して、かえって炎症を引き起こす存在にもなりうる。
この「抗体の暴走」こそが、ロングCOVIDの正体の一部かもしれません。
🧪 参考研究
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Beale S et al. Nature Communications, 2025
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Nakayama, E.E., & Shioda, T. Pathogens, 2024, 13(1109)
DOI: 10.3390/pathogens13121109