なるべくして反ワクチンになる
「なるべくして反ワクチンになる」──私たちの中にある“拒否の構造”
■ ワクチンを拒むのは「情報が足りないから」なのか?
「なぜあの人はワクチンを打たないんだろう?」
この問いは、コロナ禍の中で誰もが一度は心に抱いたことがあると思います。
政府やメディア、医療従事者がワクチンの重要性を訴えても、一定数の人たちは接種を拒否し続けました。単なる情報不足なのか、それとも意図的な誤解なのか?
──実は、もっと根深い“心理の仕組み”が、そこにはあります。
■ 研究が明らかにした「拒否の心理メカニズム」
2024年に発表されたポーランドの研究チームによる論文
『COVID-19 vaccine refusal is driven by deliberate ignorance and cognitive distortions』
では、ワクチン拒否に至る人々の心の動きが詳細に解析されました。
彼らは、正しい情報が届かないのではなく、届いても“見ようとしない”傾向があることを突き止めたのです。
これは「意図的無知(deliberate ignorance)」と呼ばれる現象です。
■ 「信じたいものだけを信じる」人間の習性
例えば、ワクチンについて「安全で効果的」という情報が提示されても、それが自分の信念や恐怖と合わなければ、私たちは無意識にそれを拒みたくなります。
これは「確証バイアス」と呼ばれる心理作用です。
さらに、反ワクチン派の人たちには、次のような**“認知の歪み(cognitive distortions)”**が多く見られたといいます:
- 「政府は嘘をついている」という陰謀論的思考
- 「ワクチン=危険、打たない=安全」と考える二分法的思考
- リスクを過剰に捉える恐怖志向の認知
■ 反ワクチンは“選ばれた思想”ではない
こうした研究結果は、反ワクチンが「情報不足な人の誤解」ではなく、その人の不安・不信・社会的背景が作り出す“構造的な反応であることを示しています。
つまり、「なるべくして反ワクチンになる」人は存在するのです。
もっと言えば、特定の条件が揃えば、誰もが反ワクチン的な思考に引き寄せられる可能性があるとも言えます。
■ 対話と理解が求められる時代へ
この事実は、ワクチンを巡る議論が「正しいか・間違っているか」の単純な話ではないことを教えてくれます。
必要なのは、
「なぜこの人はそのように考えるのか?」という問いを持つこと。
そして、“知識”ではなく“信頼”を軸にした対話です。
情報を押し付けるのではなく、相手の不安や信念に寄り添い、心理的安全性を築く──
そんなアプローチこそが、分断を超えるカギになるのかもしれません。
■ 終わりに
「反ワクチンは、なるべくしてなる。」
その背景にある“心の仕組み”に気づいたとき、私たちはようやく、相手を“説得”するのではなく、“理解”しようという姿勢を持てるようになるのではないでしょうか。