2025-01-10 22:59:00

恵あれど、恵なし

「恵あれど、恵なし」

 

新型コロナの幕開けに連日耳をつんざくように響いた「PCR!PCR!」の大合唱。お茶の間では司会者が不安を煽り、不安に駆られた視聴者は「とにかくPCRを受けなければ生き残れない」と思わされたものだ。まるで、PCRを唱えることが免疫力を高める呪文であるかのように。

 

あれから数年。今日のお昼、たまたまテレビをつけてみると、今度は「過去最多のインフルエンザ」の話題で盛り上がっている。司会者は、かつての緊張感をどこへやら、茶の間の笑いを取ろうと軽妙に話している。「皆さん、毒出しうがいですよ!これでスッキリ、予防バッチリ!」などと。

 

毒出しうがい?なるほど、これで笑いは出るが、インフルエンザは出ていかない。いやいや、真っ先に勧めるべきはマスクだろう。それも不織布マスク。次に抗原検査キットくらい紹介しても良いものだが、そんな具体策は微塵も出てこない。どうやら「笑いを出す」方が「感染を防ぐ」よりも大事らしい。

 

 

 

医療現場はさらに深刻だ。インフルエンザ治療の切り札である「タミフル」はあるものの、肝心のジェネリック薬「オセルタミビル」はどこへ行ったのか?政府はかつて、「ジェネリックを推進すれば医療費削減になる」と声高に勧めていたが、いざ必要なときになると市場から消えている。政府が推進したはずの薬が、現場で「品薄」として消えるこの滑稽さ。これでは「推奨」ではなく「空証」ではないか。

 

さらに深刻なのは、抗原検査キットが医療機関にすら行き渡らない現状だ。これでは新型コロナはおろか、インフルエンザさえも満足に診断できない。早期診断ができなければ、適切な治療も遅れ、感染拡大を防ぐどころか医療機関の負担を増やすばかりだ。

 

驚くべきことに、状況は新型コロナ初期の頃よりも悪化している。当時は、PCR検査や抗原検査を実施する体制を整え、早く診断できるようにしようという努力がなされていた。しかし今は、コロナとインフルエンザの同時流行が懸念されているにもかかわらず、必要な検査キットが届かず、医療機関は手詰まり状態だ。「いつでも検査できる環境を整える」と言っていた政府の言葉は、いったいどこへ消えてしまったのだろうか。

 

少なくとも、不織布マスクの着用をもう少し喚起するくらいはできるはずだが、不思議なことに、それだけは意固地に言わない。喚起するだけなら財源は要らないはずだ。それとも、「財源が要らない対策は増税の口実に使えないから言わない」という高度な政治的判断でもあるのだろうか。

 

仮に政府からマスク1枚でも送られてきたなら、安倍総理の時の「アベノマスク」と違って、今の政府ならきっと「財源が厳しい中、国民の安全を守るための英断だ」として増税の口実にされかねない。そんなことを想像すると、もはやマスク1枚すら受け取るのが怖い。マスクが手元に届く前に、「この冬を乗り切るための臨時増税」がセットで発表される未来が見えるからだ。

 

結局、我々にできるのは、自分たちでマスクを調達し、自分たちで手を洗い、自分たちで毒を出さないようにすることだけ。毒出しうがいより、「毒出し政府」をしてほしいものだが、それは高望みというものか。

 

そんなわけで、この冬も笑い話と不安を抱えながら、我々は「恵あれど、恵なし」の季節を乗り切るしかないらしい。もっとも、そんな皮肉を言っている間にも、新しい増税の影が迫っているのかもしれないが。