2024-06-23 13:41:00

カロリー制限と私

約40年前、私はロイ・ウォルフォード博士について知りました。彼の著書「Maximam Life Span」を通じて、カロリー制限(CR: Calorie Restriction)や抗加齢医学に関心を持つようになりました。

 

ロイ・ウォルフォード博士は、カロリー制限によって寿命を延ばし、老化を遅らせることができると提唱しました。彼は、週の5日間は通常通り食べ、2日間は絶食するという食事療法を実践していました。しかし、残念ながら彼はALS(筋萎縮性側索硬化症)で亡くなってしまいました。

 

ウォルフォード博士の理論によれば、カロリー制限は免疫系の老化を遅らせ、健康寿命を延ばすことができます。免疫の老化、または免疫老化(immunosenescence)は、年齢とともに免疫系の機能が低下する現象を指します。これにより、感染症への感受性が増加し、ワクチンの効果が低下し、がんや自己免疫疾患のリスクが増えるなどの健康問題が生じます。

 

ウォルフォード博士は、カロリー制限が免疫系に及ぼす主な効果として次の3点を挙げています:

 

1. **T細胞の機能改善**:カロリー制限は、年齢とともに機能が低下するT細胞の働きを改善する可能性があります。T細胞は感染症やがん細胞と戦う免疫系の重要な部分です。

 

2. **炎症反応の低下**:高齢者はしばしば慢性的な低度の炎症状態(炎症老化)にあります。カロリー制限は、この炎症反応を低下させるとされています。

 

3. **免疫系の再構築**:カロリー制限は、免疫系の細胞の新陳代謝を促進し、老化による細胞損傷を減少させると考えられています。

 

ウォルフォード博士の理論には他にも多くの重要な概念が含まれています。例えば、1969年に発表された「免疫学的老化理論」では、免疫系の機能低下が老化と関連する多くの病気に寄与することを提唱しました。さらに、彼は遺伝子が寿命に与える影響についても研究し、その成果を数多くの科学論文として発表しました [oai_citation:1,Roy Walford and the immunologic theory of aging | Immunity & Ageing | Full Text](https://immunityageing.biomedcentral.com/articles/10.1186/1742-4933-2-7) [oai_citation:2,Roy Walford - Wikipedia](https://en.wikipedia.org/wiki/Roy_Walford)。

 

ウォルフォード博士はまた、1991年から1993年にかけてバイオスフィア2プロジェクトに参加し、閉鎖環境内でカロリー制限の実践を行いました。この経験は彼の理論を実生活に適用する重要な機会となりました [oai_citation:3,Roy Walford - Wikipedia](https://en.wikipedia.org/wiki/Roy_Walford)。

 

カロリー以外の栄養素を不足させずにこの食事療法を長期間続けることは大変です。そのため、カロリー制限を擬似的に作り出す方法がいろいろと研究されてきました。例えば、SGLT2阻害剤は、擬似的カロリー制限や老化細胞除去に役立つかもしれないと考えられています。順天堂大学の研究によると、SGLT2阻害剤が老化細胞除去に有効であることが示されています [oai_citation:4,臨床応用可能な老化細胞除去薬の同定に成功―アルツハイマー病などの加齢関連疾患への治療応用の可能性― | 国立研究開発法人日本医療研究開発機構](https://www.amed.go.jp/news/release_20240531.html)。数年前から、その作用機序から考え、少なくとも老化した脂肪細胞除去作用はあるだろうと私も考えていました。

 

さらに、東京大学の中西真教授が率いる研究チームは、GLS1阻害剤を用いて老化細胞を選択的に除去し、老化関連の組織機能障害を改善することを発見しました。この研究は、GLS1阻害剤が老化細胞除去に有効であり、老化関連疾患の新たな治療法としての可能性を示しています [oai_citation:5,GLS1 inhibitor that selectively removes senescent cells ameliorated age-associated tissue dysfunction and diseases such as arteriosclerosis|THE INSTITUTE OF MEDICAL SCIENCE, THE UNIVERSITY OF TOKYO](https://www.ims.u-tokyo.ac.jp/imsut/en/about/press/page_00031.html) [oai_citation:6,

 

GLS1 inhibitor selectively eliminates senescent cells, ameliorates age-associated disorders

 

 

](https://www.natap.org/2021/HIV/020821_01.htm) [oai_citation:7,Inhibiting the GLS1 enzyme could improve age-associated disorders](https://www.drugtargetreview.com/news/82674/inhibiting-the-gls1-enzyme-could-improve-numerous-age-associated-disorders-finds-study/)。

 

私自身は、擬似的カロリー制限として一時期ケトン食を試しましたが、現在はアンドルー・ワイル博士が提唱する抗炎症と緩やかな糖質制限を行っています。この方法は、通常のカロリー制限のような空腹感を我慢することが辛くないため、実践し易い食事法の一つです。私の食事には、様々な色の野菜を含む植物性ケトン食の側面があります。エキストラバージンオリーブオイル、アボカド、ナッツ類、青魚など、良質な油が多く含まれています。

 

通常のカロリー制限は空腹感がつらいことが多いですが、糖尿病などの病気のコントロールには有効かもしれません。

 

ウォルフォード博士の研究は、カロリー制限が免疫系に及ぼす効果についての理解を深める上で重要な貢献をしました。しかし、人間におけるカロリー制限の効果や安全性についてはさらなる研究が必要です。カロリー制限や糖質制限を行う際には、必要な栄養素を適切に摂取することが重要であり、医師や栄養専門家のアドバイスを受けることが推奨されます。