今回は、新型コロナウイルス感染(COVID-19)が男性の妊孕性(にんようせい)に与える影響についてお話しします。COVID-19は主に呼吸器系に影響を与える病気として知られていますが、最近の研究では男性の生殖機能にも影響を及ぼす可能性があることが示されています。この記事では、一般の方にも分かりやすく解説していきます。

 

COVID-19と男性不妊の関連

 

COVID-19感染が男性不妊にどのような影響を与えるかについて、多くの研究が行われています。その結果、以下のような重要なポイントが明らかになっています。

 

1. 視床下部-下垂体-性腺軸(HPG軸)の破壊

 

COVID-19は、脳と精巣をつなぐホルモン調節系であるHPG軸に影響を与えます。この軸が破壊されることで、精子の生成や性ホルモンの分泌が乱れ、結果として妊孕性が低下することがあります 。

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図:COVID-19が視床下部-下垂体-性腺軸(HPG軸)に与える影響

図の説明:

1. GnRH(ゴナドトロピン放出ホルモン):

視床下部から分泌されるホルモンで、下垂体前葉に作用してFSHとLHの分泌を促進します。

2. FSH(卵胞刺激ホルモン):

精巣のセルトリ細胞に作用し、精子の生成を促進します。

3. LH(黄体形成ホルモン):

精巣のライディッヒ細胞に作用し、テストステロンの生成を促進します。

4. テストステロン:

精子の生成を支えるホルモンであり、筋肉や骨の健康維持にも重要です。

5. COVID-19の影響:

SARS-CoV-2感染により、HPG軸の調節が乱れ、テストステロン、FSH、LHのレベルが異常になります。

炎症や酸化ストレスが精巣組織にダメージを与え、精子の質に悪影響を及ぼします。

6. 精巣:

テストステロンの生成と精子の生成が行われる場所です。COVID-19感染により精巣機能が低下することがあります。

 

この図は、COVID-19が視床下部-下垂体-性腺軸(HPG軸)を介してどのように男性の妊孕性(にんようせい)に影響を与えるかを示しています。感染がこの軸を乱すことで、精子の生成や性ホルモンのバランスが崩れ、結果として妊孕性が低下することが分かります。

 

2. ホルモンバランスの異常

感染後、多くの男性でテストステロン(男性ホルモン)、FSH(卵胞刺激ホルモン)、LH(黄体形成ホルモン)のレベルが異常になることが報告されています。これにより、性機能や妊孕性が影響を受けることがあります  。

 

3. 精液パラメータの変化

 

COVID-19に感染した男性では、精液の量や精子の数、運動能力が低下することが確認されています。これらの変化は、妊孕性に直接影響を与える重要な要素です  。

 

4. 炎症と酸化ストレス

 

感染による炎症や酸化ストレスが精巣組織にダメージを与え、精子の質に悪影響を及ぼすことがあります。特に、精子のDNAが損傷することが報告されています 。

 

5. ウイルスの精巣内存在

 

SARS-CoV-2ウイルスは精巣内にも存在し、精巣細胞や精子細胞に感染することが確認されています。これが精子生成に悪影響を与える一因となっています 。

 

6. 長期的な影響

 

一部の研究では、COVID-19感染後も精子の質が回復しないケースがあり、長期的な妊孕性の低下が懸念されています。感染後に妊孕性が低下したままの男性もいるため、継続的な健康チェックが重要です  。

 

7. ワクチンの影響

 

ワクチンは発症予防および重症化予防に効果的であり、これにより妊孕性に対するリスクを減少させる可能性があります 。(現在のところ、COVID-19ワクチンが男性の生殖機能に重大な影響を及ぼすという証拠はありませんが、長期的な影響についてはさらなる研究が必要です。)

 

8. 無症状感染のリスク

 

無症状のCOVID-19感染者でも、精巣や精子に影響が及ぶ可能性があります。したがって、感染防止策を徹底することが重要です 。

 

9. 重症度と生殖機能

 

重症のCOVID-19感染者では、軽症の感染者に比べて精子パラメータやホルモンバランスの異常が顕著に見られることが多いです。重症度が高いほど、妊孕性への影響も大きくなる可能性があります 。

 

10. 精液パラメータに異常が見られる割合

 

COVID-19感染により精液パラメータに異常が見られる男性の割合は約25〜30%と報告されています。特に重症感染者では、精子数や運動能力に著しい低下が見られます  。

 

感染回数と不妊性の上昇

 

複数回のCOVID-19感染が男性の妊孕性に与える影響についての具体的なデータはまだ十分に揃っていません。しかし、一部の研究では、繰り返しの感染が精巣の機能や精子の質にさらに悪影響を与える可能性が示唆されています。これにより、妊孕性のリスクが高まる可能性があります  。

 

まとめ

 

COVID-19感染が男性の妊孕性に与える影響については、まだ完全には解明されていない部分も多いですが、現在の研究からは注意が必要であることが示されています。感染予防策を徹底し、感染後に不妊のリスクが懸念される場合は、専門医の診察を受けることが重要です。健康な生活を送りながら、将来の家族計画をしっかりと立てていきましょう。この情報が、COVID-19と男性不妊に関する理解を深める一助となれば幸いです。