新型コロナウイルス(COVID-19)の感染が私たちの健康に与える影響は、単なる呼吸器症状に留まりません。長期にわたる後遺症(long COVID)や、神経系への影響が注目されています。特に、神経・血管における炎症が引き起こす様々なリスクについての研究が進んでいます。ここでは、COVID-19が脳に与える影響と、私たちが取るべき対策について解説します。
1. COVID-19の脳への影響
long COVIDと自己抗体
long COVID患者由来の自己抗体を注射されたマウスでは、long COVIDの症状が再現されることが確認されています。具体的には、神経系のタンパク質に対する自己抗体が増加し、これが神経症状を引き起こす可能性があります【Guedes de Sa KS, et al. 2024】。
脳卒中や神経変性疾患のリスク増加
COVID-19感染後、虚血性脳卒中、アルツハイマー病、パーキンソン病の発症リスクが増加することが報告されています。感染後の神経炎症や酸化ストレスが、これらの神経変性疾患の発症に関与していると考えられています【Bonhenry D, et al. 2024】。
パーキンソン病と神経炎症
SARS-CoV-2ウイルス感染が、パーキンソン病のリスクを高めることも示されています。感染はドーパミン作動性ニューロンの障害を悪化させ、長期にわたる神経炎症を引き起こします【Lee B, et al. 2024】。
2. 治療と予防の現状
リトナビルの効果
抗ウイルス薬リトナビルの長期投与は、long COVIDの症状改善には効果がないことが確認されました【Geng LN, et al. 2024】。
ワクチン接種の重要性
COVID-19後の認知機能障害の機序には、IL-1βが関与しています。このサイトカインが神経新生を阻害し、認知障害を引き起こします。しかし、ワクチン接種により、このリスクが軽減されることが示されています【Vanderheiden A, et al. 2024】。
3. 私たちが取るべき対策
ワクチン接種の推奨
科学的根拠に基づくワクチン接種は、COVID-19による神経障害を予防するための有効な手段です。特に、認知機能の低下を防ぐためにも、多くの人にワクチン接種の重要性を理解していただきたいと思います。
日常生活での予防策
• マスクの着用:人混みではマスクを着用し、感染リスクを減らしましょう。
• 手洗いの徹底:こまめな手洗いを心がけ、ウイルスの拡散を防ぎます。
• ソーシャルディスタンス:人との距離を保つことで、感染リスクを低減します。
COVID-19の感染を予防し、脳を守るためには、日常生活での対策とワクチン接種が欠かせません。皆さん一人一人の予防行動が、自分自身と周りの人々を守ることにつながります。
参考文献
• Guedes de Sa KS, et al. A causal link between autoantibodies and neurological symptoms in long COVID. medRxiv. June 19, 2024.
• Bonhenry D, et al. SARS-CoV-2 infection as a cause of neurodegeneration. Lancet Neurol. 2024 Jun;23(6):562-563.
• Lee B, et al. SARS-CoV-2 infection exacerbates the cellular pathology of Parkinson’s disease in human dopaminergic neurons and a mouse model. Cell Rep Med. 2024 May 10:101570.
• Geng LN, et al. Nirmatrelvir-Ritonavir and Symptoms in Adults With Postacute Sequelae of SARS-CoV-2 Infection: The STOP-PASC Randomized Clinical Trial. JAMA Intern Med. 2024 Jun 7.
• Vanderheiden A, et al. Vaccination reduces central nervous system IL-1β and memory deficits after COVID-19 in mice. Nat Immunol (2024).
詳しくは岐阜医科大学脳神経内科学教授下畑享良先生のブログをご覧下さい。